3335手間
しばらくホブゴブリンの相手をしつつ先に進んでいると、廊下に接している小部屋に不可解な物が段々と配置され始めた。
それは最初は倉庫に保管されていた金属片よりも大きな塊の金属だったのだが、先に進むたびに段々とその金属が元の形を保ったまま置かれていたのだ。
「ふむ? これは一体何なのじゃろうな」
パッと見ると円筒型のモノが地面に横たわっているだけなのだが、上部にはガラスか水晶だかの覗き窓があり、そこから覗いてみれば底は平らになっており、寝心地を考慮しなければ、成人男性一人くらいは横たわって眠れそうな空間があった。
しかし、その中身は何もなく、大半は形を保っていたとしても円筒形の上半分が開いていたり、中から破壊されたような状態であった。
いくつか見て回ったところ、ようやく中身らしきモノが入っていた円筒形の金属箱を見つけたのだが、一体いつから溜まっているのか、どす黒いドロドロとしていそうな何かであり、正直開けて調べようなんて気は起きなかった。
「臭いもすさまじそうじゃしのぉ」
ホブゴブリンの巣に入るにあたり、障壁を使って臭い対策はしているので臭いそのものは感じないのだが、この黒い何かは見ているだけで悪臭を感じるようで、ワシはすぐに顔を背けて他に何かあるのか探してみるが、今のところこの円筒形の何か以外は見つかっていない。
「しかし、ここは何の施設じゃったのかの」
正直この円筒では何かを保管するには小さすぎるし、昔のベッドだったとしても随分と寝心地が悪そうで、廃れるのも当然だろう。
冗談はともかく、この遺跡には何かを示すような看板やらも残っておらず、そもそも今にも崩れそうな状態なので、遺跡が形を保っていること自体が奇跡と言える。
だがホブゴブリンの巣になり果てている現状を思えば、さっさと潰れていた方が面倒がなくて良かったとも思わなくもないが。
「ま、どうせろくでもない研究やらをしておったんじゃろうがの」
ワシの経験上、地下に残っている遺跡は、ろくでもない事をしていた場所と言い切ってもいい。
そもそもがわざわざ地下に作っている時点で、何かしようとしているのは間違いない。
もちろん地上でもろくでもない事をしていた者たちは居たであろうが、地上は変化が多いので長い間に破壊されたかしたのだろう。
「ホブゴブリンがここで何かをしておって、長い時を重ねたことで知能が低下した、なんてことは流石にないじゃろうな」
ゴブリンの一部がたまたまここを見つけ、その後何かあって閉じ込められて、その末にホブゴブリンと変化したと考えた方が自然だろう。
何にせよ魔物である以上は駆除しなければならないのだが、そのためには早々にここを潰すのが一番だ、これほど崩壊しかけているのだから、一部を崩せば全部崩れてくれるだろう。
とはいえまずはここがある程度なんの為の場所なのかを探ってからでも遅くはない、何より幻術の原因が何か分からないのだが、ここが何かの研究所だとすれば、人除けをしているということはますますろくなことをしていないことは間違いない。
「正直、知りたくはないんじゃがのぉ」
こんな場所で人除けをしている研究だ、良い気分になるようなモノではないであろうが、それでも万が一そういったモノがまだ続いている可能性もあるので、この目で確かめてから破壊せねばならない。
ならば先に進むしかないかと、何か溜まっている方の円筒だけ焼き尽くして他に何か無いかと部屋を出るのだった……




