3334手間
奥から奥からやってきたホブゴブリンどもは、懸念通りと言えばよいか魔法を扱うホブゴブリンばかりであった。
しかもその威力はワシが見た個体や、騎士たちの報告にあった個体のどれよりも威力が高く、やはりワシ一人で来たのは正解だった。
とはいえ威力が高いと言っても多少といった程度で、直撃したところで凡人であろうとも致命傷にはならないだろうが。
「ふむ、折角じゃ、魔法合戦としゃれ込もうかの」
列をなしホブゴブリンが撃ってくる魔法は、さしたる威力はないと言っても握り拳ほどの大きさの炎が矢継ぎ早に飛んでくるのだ、見栄えとしては悪くない。
そして腹立たしい事に、観察するためにワシが何もしていないからか、全くワシに魔法が効いていないというのにホブゴブリンどもは何やら得意げにゲッゲッと品のない笑い声をあげている。
別に誰も見ていないし、奴らもすぐに今まで処分してきたホブゴブリンの後に続くのだ、ワシを舐めるような者など居なくなるのだが、それでも舐められっぱなしというのも気分が悪い。
なれば正面から打ち破ってやろうではないかと、ワシもホブゴブリンどもが撃つのと同じような大きさの炎の球を撃ち、ホブゴブリンどもの魔法を消し飛ばす。
「ほう? これでも逃げぬとは、愚鈍か蛮勇か、逃げぬのは褒めてやろうではないかえ」
正面からぶつかった魔法は、ワシの放った炎が何の抵抗もなくホブゴブリンの炎を打ち消し、そのままホブゴブリンに直撃すると爆発することなくホブゴブリンに吸い込まれるように消えたと思えば、直撃したところから弾けるようにホブゴブリンが灰燼と化しあっという間に消滅してゆく。
だが他のホブゴブリンは、目の前で同胞が消えたというのにひるむことなく魔法を撃ってくるものだから、ワシは呵々と笑いながらその蛮勇を褒めたたえる。
しかしホブゴブリンの魔法と違いワシの魔法に当たれば一撃必殺、さほど間もなく襲い掛かってきたホブゴブリンは両手で数えるよりも早く殲滅された。
「ワシを迎撃に来たと思っておったが、物資を運びに来たところで、たまたまワシとかち合っただけかの」
ホブゴブリンを殲滅し少し先に進んだところで、慌てて放り投げたかのように幾つもの金属片が廊下に転がっており、この金属片も先ほどの部屋で見かけたのと同じような何かから剥がしてきたかした物だろう。
「やはりこれも多少錆びてはおるが、朽ちてはおらんのぉ」
金属片は単純な鉄ではなさそうというのは分かるが、ワシには少し錆びている金属ということ以外は分からない。
ザリッと錆びを指でこすってそぎ落とせば、すぐに錆は落ちて金属の表面が現れ、芯まで錆びてはいない。
この遺跡がいつの物かは分からないが、千や二千よりは古いだろう、そんな期間手入れもされず放置されていた金属としては、随分ときれいなものだ。
「錆ないようにわざと表面を錆びさせると聞いたことがあるが、これもそういったモノじゃろうか」
とはいえここで考えていても仕方なし、金属のことでワシが頭を捻っても答えが出る訳もないので、後でドワーフに見せるかと金属片を拾い腕輪へと仕舞う。
「あとはコレの出どころじゃな」
今運んできたということは、どこかにこの金属片の元があるはず。
錆具合からホブゴブリンが打った物ではないであろうし、何か金属で作られた物があり、それから引っぺがして使っているのだろうか。
何にせよこの先にそれはあるのだろうと、ちょくちょくやってくるホブゴブリンを一瞬で葬りつつ、さらに先へと足を進めるのだった……




