3332手間
わずかに下っている洞窟の壁面をよくよく見れば、釿―柄が手前に曲がった大きなノミのような道具― で雑に削ったようなデコボコとした表面が続いており、この洞窟は何か道具を使って広げられたりしたのだろうか。
それにしてもいったい何のために広げたのか、もしかしたら外に外に掘り進めて、今ようやく外に通じたのかもしれないが、ホブゴブリンが持っていた獲物はどれもこれも石製だったが、 そんな物で洞窟を掘ることが出来るのだろうか。
壁を触ってみた限り、確かに比較的柔らかいようであるが、それでも岩は岩だ、それなりに硬い物でなければ削ったり砕いたりは難しいだろう。
「ま、先に行けば分かるじゃろう」
自然にこうなったのであれば何の問題もないが、ホブゴブリンが洞窟を掘ったとなれば、なかなかに由々しき問題だ。
何せ自分たちで住処を広げれる、作れるということは、唯々そこにあるモノを利用するよりも、圧倒的に増えるのに有利になる。
「岩を削れるなれば、石斧を作るのも随分と楽であろうしな」
鱗のようにも見える壁面を眺めつつ進んでいけば、流石に侵入者に気付いたか、ギッギッギッっと歯ぎしりを大きくしたような音が聞こえ、洞窟の奥から複数匹のホブゴブリンが現れた。
しかし彼らはワシに出遭うのが予想外過ぎたのか、ワシを見ても騒ぎ立てることなく、何かわけの分からないモノを見かけたかのように、あんぐりと口を開けて呆けている。
ならばさっさと黙らせてしまおうと、その首を刎ねて血が吹き出ないように傷口を燃やし、撥ねた頭はそのまま燃やし尽くす。
頭をなくしその場に倒れこんだホブゴブリンの手から石斧を取ると、おもむろに壁へと叩き付ければ、壁に多少傷をつけた程度で石斧は砕けてしまった。
「ふぅむ、石斧で削っていったわけではないのかの」
もっと特別なモノを使ったのか、なんにせよこれ以上は検証することもないと、砕けた石斧の柄を投げ捨てホブゴブリンの死体と共に燃やしてしまう。
そして石が砕けるほど思いっきり叩き付けたのだ、流石にホブゴブリンたちも慌ててワシの方へとやってくるが、彼らは目が悪いのか、かなり近くまでやってこないとワシを認識しないので、来るたびに燃やしていけばホブゴブリンが警戒の声を上げるより前に、音を聞きつけてやってきた警戒心の強い個体を殲滅することは簡単だった。
「さて、この巣にはどれほどの数が居るのかのぉ」
緩やかな下りつつ、やや曲がりくねっている洞窟をさらに先に進んでゆけば、特になにか広場のような場所に出ることもなく、予想外と言えば予想外ではあるが、よく見る遺跡よりも随分とくすんだ色味の壁面が続く場所へと繋がっていた。
「ふぅむ、これこそホブゴブリン程度では砕けぬであろうが……」
如何にも廃墟といった感じのそこは、壁にはひび割れが目立ち、遺跡特有の天井や壁が淡く光っているということもなく、ワシがよく見る遺跡よりも単純に言えば文明レベルが低いようにも思える。
そんな事よりも、まずは確実にここを住処にしているであろうホブゴブリンを殲滅することが先決であろうと、左右に伸びる廊下の片方を壁を創り出して塞ぎ、塞がなかった右手の方へと向かえばすぐに廊下の左右に扉のない小部屋が連なる場所へと出ると、その中では何匹ものホブゴブリンが体を丸めて寝ている所だった。
「まとまっておるのならば好都合じゃ」
休んでいるか寝ているかは知らないが、こちらに反応してこないのを良い事に、部屋ごと次々と奴らが悲鳴を上げる暇もないほど素早く燃やし尽くしてゆく。
いくつかの部屋では流石に起きているホブゴブリンも居たが、当然ワシより早く反応出来る訳もなく、寝ている奴ら同様にワシが通り過ぎる頃には灰すら残ることはない。
「ふむ、流石に一本道とはいかんようじゃのぉ」
当たり前であるが、少し進めば十字路に出たので、さてどちらに進もうかと顎に手を当てたところで微かにホブゴブリンの声がしたので、折角だからと声がした方に進み行かなかった二か所をまた壁で塞いで足早に声のする方へと向かうのだった……




