3323手間
ホブゴブリン討伐数上位の班たちだけを残し、他の者たちを通常業務に戻した後、彼らを件の痕跡が途切れている場所を集中的に探らせたのだが、やはりというか案の定ホブゴブリンの巣や抜け道などを探し出すことは出来なかった。
「ふぅむ? 森を根こそぎひっくり返すようなことはしておらんのじゃぞ、まだ何も見つからぬということがあるのかえ」
「当然、彼らが手を抜いているということはないだろうに、どういうことか説明できるかい?」
「そう仰られると思いまして、既に連れてきておりますので」
「そうか、なら直接聞こう」
流石に全く同じところで痕跡やホブゴブリンを見失うことが続くならば、どういうことかと問い質す他ない。
そうワシらが考えるだろうと既に察していたか、文官が騎士たちを連れてきているというので、早速彼らを入室させる。
「して、そやつは誰じゃ?」
「はっ、彼は私と懇意にしております狩人であります」
「ほう」
入ってきた騎士たちと一通りあいさつを済ませた後、周りから剣でも突きつけられているかのように、居心地悪そうにしているやや身なりの悪い男へと視線を向ける。
騎士の一人が言うには、彼が件の狩人のようでワシらの前に連れてくる位には信頼を置いているらしい。
「私の知る内で一番腕の良い狩人ですので、彼が見つけれないのであれば、正直私たちにはどうにも」
「ふぅむ、この場限りであるが、直答と言葉遣いの乱れを許そう、何かあるのであれば言うがよい」
随分と買いかぶられているようだが、それに対して何かあるのか、狩人の男が何か言いたげにしていたので、彼に話すように促せば、彼は目を見開き騎士とワシらとの間で視線を行き来させ、それを見て騎士は彼の背を優しく押してワシらの前に出す。
「私が一番腕の良いなどとてもとても」
「謙遜であろうとそんなことはどうでもよい、腕がよかろうと悪かろうと、獲物を狩れねば意味がないのじゃからな。しかし、腕の良いと言われておるのじゃ、何故狩れぬのかは理解しておるのじゃろう?」
狩人にとって重要なのは獲物が狩るという一点のみ、腕の良し悪しというのは失敗した時に、いかにその失敗を理解しているかであろう。
そう聞けば、彼は少し視線を彷徨わせた後、完全に自分の感覚のみですがと前置きをしてから話し出した。
「痕跡やホブゴブリンを追っていくと、必ず同じところで、何と言いますか…… 突然そこだけ見えない池の中に入っているかのようで、それ以上は濃い霧に隠されたように分からないのです」
「ふぅむ、霧とな?」
「いえ、実際は池も霧もなく、ただの森なのですが、そこだけ本当に何も見つけられず……」
実に不自然ではあるが、森に生きる者がそういうのであれば、そこに何かあると考えるのが自然であろう。
であればそれを探せるのはワシだけだろうと、すっと立ち上がれば、狩人たちは自分たちを咎める為とでも思ったのか、びくっと肩を揺らせて顔を伏せるのだった……




