3320手間
ワシの指示通りに文官たちは騎士たちを丁度よく煽ったのだろう、次の報告の際には騎士たちの討伐数が全体的に伸びてきた。
とはいえ討伐数の上と下はあまり動いていないようではあるが、これは致し方ない事だろう。
「上も下も伸びていないのに、全体では伸びていたのかい?」
「んむ、今まである程度の数でやっていればいいじゃろうと思っていた者たちが、今更焦っておるのじゃろうて」
「なるほど。今まで手を抜いていた者たちが本腰を入れたということか。じゃあ、上と下が動いていないのは?」
「上は致し方なかろうて、全力で走っておるのに、更に速く走るのは無理であろう? まぁ実際には全力を出してはおらんじゃろうが、変に力んでも怪我をするだけじゃからの」
今回は一緒に報告を受けているクリスが、そんなことを聞いてきた。
クリスとしては報奨が出れば全体が数を伸ばすと思っていたようだが、上と下が殆ど数を伸ばしていないことが疑問だったのだろう。
「下は、まぁやる気がないんじゃろう」
痕跡を見つけるのが苦手なのか、当初から討伐数が振るわない者たちは、報奨の噂が出てからも全く数は変わっていない。
とはいえそんな彼らも討伐そのものはしているので、決して職務怠慢ということではないのだが。
「それよりも問題なのは、討伐数が伸びておることじゃよ」
「ホブゴブリンを順調に狩っている証拠だろう? それの何が問題なんだい」
「水瓶から柄杓で水をすくったとして、柄杓の中に水が並々と入るということはどういうことじゃ?」
「水瓶の中にはまだまだ水があると、なるほど……」
「狩っても狩ってもホブゴブリンがおるとは、どれだけあの地域にはホブゴブリンが居るのじゃ?」
元になっているであろうゴブリンも、例の虫並みに繁殖力が高いので、気を抜くと一気に増えるから密集しているのもさほどおかしい事ではない。
しかし、ここの魔物は獣同様に生き物であるのだから、早々増えるのもおかしいというもの。
しかも騎士団が総力を挙げてとまではいかないが、その大半が討伐に注力しているというのにこれだ。
「ふぅむ、どこかに巨大な巣があるのかのぉ」
「ホブゴブリンは、魔法を使えるモノが生まれると、すぐに巣分けされるんじゃなかったかい?」
「しかしのぉ、これだけ数が減ることもないとなると、逐次どこからかやって来ておらねば、説明がつかぬであろう」
さらに言えばそんなに数が居るのに、今まで見つからなかったというのが不自然すぎる。
ドワーフのように元はは地下にでも居て、最近たまたま好奇心旺盛な個体が外に出てきて増えたのではないか、そんな想像をしながら数の減らぬ討伐報告書をねめつけるのだった……




