3318手間
騎士たちの報告によれば、大半のホブゴブリンの巣は細い岩の隙間などが入り口であったが、たまに人が通れるくらいの入り口を持つ巣もあったそうだが、巣というよりも一、二グループほどの小さな集団しかいなかったそうだ。
「巣から追い出されたか、新しい巣を見つける道中の仮宿か」
「どちらにせよ、ホブゴブリンはかなり頻繁に巣の数を増やして居るようじゃな」
「それにしても、これだけ巣を作っていて、何故今まで見つからなかったんだ?」
クリスの言う通り、規模が小さいものばかりとはいえ、ゴブリンやオークに比べて数の多い巣をなぜ今まで見つけることが出来なかったのか。
確かに騎士団の報告によれば、微妙に今までの魔物と違う場所に好んで巣を作っているらしく、これまでのノウハウが殆ど役に立たなかったという言もある。
幸い今までにホブゴブリンによる被害もなく、現在は問題なく発見、討伐が出来ているので、決して騎士団の怠慢ではないのだが。
やはりそれでも今まで見つからなかったのは、本当に不思議な事だ。
「してやはり魔法を使う奴が、各巣のボスになっておるようじゃな」
「セルカの言っていた通り、かなり魔法の練度は低いみたいで、金属鎧であれば受けても全く問題ないそうだよ」
「ふむ、どこもそうと言うことは、ホブゴブリンの魔法の練度というのはそこが限界と言うことかのぉ」
ワシの対峙した奴が魔法が不得手という訳ではなく、どうやら全体的に魔法を本当に使える程度らしい。
そして必ず魔法が使える奴は一匹だけ、どれほど小さいグループでも一匹は必ずいるが、どれほど大きい巣でも一匹以上は居ないという。
「うぅむ、もしかしたら巣分けが早く多く、狭い範囲に点在しておる理由はそれやもしれんのぉ」
「どういうことだい?」
「魔法が使える個体が出てくるたびに巣分けしておるんじゃろう。ゴブリンなんぞはまとまった数が出来るまで巣分けはせぬが、どれほど少数でも巣分けを行っておるから、遠くまでは行けんのじゃろう」
ボス争いをしない為か、必ず魔法を使える個体が一匹のみというのは、そういうことなのだろう。
であれば魔法の練度が低い理由も自ずと推察できる。
「恐らくじゃが、すぐに巣分けをするせいで、魔法を教えることが出来ないのじゃろうて」
「本能的に使っているのならば、別に教わる必要もないんじゃないかい?」
「狐であっても、狩りのやり方は親を見て覚えるのじゃ、それが無いのであれば狩りは出来ぬじゃろうて」
「なるほど。教われず教えることもないから、ずっと下手なままなのか」
教えるという行為も練度を上げる為には重要な事だ、何故そんな勿体ないことをしているのか、とはいえ相手は魔物だ、こちらとしてはありがたい事なので、このまま阿呆のままでいてくれればよいと騎士から上がってくる報告書に目を通してゆくのだった……




