3316手間
実務的な話を終え、心なしか身を乗り出すようにしてクリスが、更にホブゴブリンのことについて聞いてきた。
「魔法を使うと言っていたが、どの程度の威力で使うんだい?」
「ふむ、そうじゃのぉ。口で説明するよりも見た方が早いじゃろうな」
平民である兵士や冒険者たちは魔物が魔法を使って多少驚いた程度に留まっていたが、クリスたち貴族にとって魔法とは特権とは少し違うが、自分たちだけが扱えるモノという意識があるのだろう。
そこが魔物ごときに脅かされたのだ、流石に近衛や近侍たちの前ではそこまで動揺していないように振舞って軽い口調で聞いては来ているものの、その声音は重苦しい。
「とはいえここで火を使うのもなんじゃからの」
この部屋には書類なども大量にある、ワシの狐火がワシの意に反して物を燃やすことはないが、心情的にはあまりよろしくないだろうと、ワシは火を光の球で代用してホブゴブリンの使ってきた魔法を再現する。
「これは…… よほど才能のない者でもない限り、子供だってもっとまともに魔法を使えるぞ」
「まぁ脅威ではないというのはそうじゃがの、魔導具もなしじゃからの?」
「あぁそうか。じゃあいったい、魔物はどうやって魔法を使っているんだい?」
「魔石じゃよ、あれを触媒に魔法に似た術を使っておる。本能的に使える分、特定のことしか出来ぬがの」
カマキリのような魔物の使う幻術のように、誰に教わるでもなし強力な術を揮えるが、それ以外の術を行使するということが出来なかったりする。
ドラゴン型などと言われる巨大なトカゲが吐く炎なんかも同じ原理だ。
「その割にはホブゴブリンの魔法は微妙なんだね」
「ホブゴブリンという種として、使える能力ではないじゃろうからの」
ワシの例えで出した魔物たちは、威力の大小はあれど皆同じように使えた。
しかし、ホブゴブリンの魔法はあの群れのボス以外は使うことはなかったということは、あの個体固有の能力だろう。
いや、よくよく考えればホブゴブリンが何かをする前に倒してしまっていたから、もしかしたら下っ端も使えたかもしれない。
とはいえ、ボスの近くに侍っていた奴らも使ってこなかった事を鑑みるに、ボス以外は使えないと見てもいいだろう。
「ただ、才覚で使えるようになった能力であれば、他の魔法を覚えたりさらに技量を伸ばすことも可能なはずじゃ」
「それは、脅威だな」
独学で魔導具もなしに魔法を使ったのだ、もしその能力を伸ばすことが出来たのならば、その脅威は計り知れない。
何せ今の騎士団は魔法を使う魔物との戦闘など想定しておらず、当然そこらの者たちが対処できるようなモノではない。
例え小さな火の玉だけを飛ばすことが出来たとしても、ただのゴブリンよりも脅威度は圧倒的に高いことは間違いないと、クリスは苦虫を嚙み潰したような表情でいかに対処すべきかと呟くのだった……




