3315手間
一応は兵士や冒険者たちにも口外しないようにと命じているが、兵士も冒険者も平民だ、完全に口をふさぐことはなく、酒の席で零すこともあるだろう。
とはいえ王族の命だ、こぼすとしても多少は濁すであろうし、不確定な噂という粋を超えることはないだろう。
「不確定な噂だとしても、臣民の不安を煽ることになのは、間違いないだろう」
「まぁ、殆どの者は外には出ぬし、騎士が対処すると言っておけば問題はなかろう」
ホブゴブリンらしき魔物から被害を受けたという者が居なければ、見間違いだったり、ただ見た目が悪い野盗が、噂のもとだったのではないかとなるのがオチだろう。
それでも騎士の見回りを増やしますよとなれば、深読みするような者でもない限りは、大方の者には肯定的に捉えられるであろうし問題はない。
「しかし、居る可能性が高いとはいえ、何も情報がない中で探すのはな」
「とりあえず、今回見つけた場所の周辺を始めとして、探索しておらん場所、探索の間が開いておる場所を重点的に、あとは狩人などの足跡を見れる者を同行させた方が良いじゃろうな」
「それしかないだろうね。狩人に関しては、流石に外部から入れる訳にもいかないから、騎士たちの中から趣味でやってる者を必ず入れるように指示しよう」
「あぁ、それならばお膳立てされた遊びではなく、狩りをしたことがある者にするようにの」
「そうだね」
貴族の狩りというものは、用意された獲物をお膳立てされた舞台でとどめを刺すだけのつまらぬお遊びだ。
当然そんな事をしていても、獲物の痕跡を探す技能が培われる訳もなく、そんな者を狩りをしたことがあるなんて言われたくもないし役にも立たない。
「とはいえ、そんな狩りをしたことがある騎士が居るかどうか……」
「あまり裕福ではない者であれば、やったことはあるのではないかのぉ」
「裕福な者の方が狩りをしてるんじゃ?」
「それはお遊びの方であろう。貧しい家であれば、狩りで生計を立てておっても不思議ではないからの」
「それはどうだろうか、やっていたとしても体面を考えて名乗り出ないだろう」
「ふぅむ、ワシとしてはお遊びの方が恥ずかしい気がするがのぉ」
ワシとしては食べる為の狩りよりも、赤子があやされるように、どれほどの阿呆でも出来るお膳立てされた狩りの方がやっていて恥ずかしい気がするのだが、貧乏だから狩りしてましたというのが、貴族的に恥ずかしいと言われるのも、一応は理解できる。
「まぁあれじゃ、お膳立てされずとも狩れる程度にしておこうかの」
あまり条件を狭くしても該当する者が居なくなるだけだ、今回は不審な痕跡を見つければいいだけなので、そこまで難しくすることもないかと、至極簡単な条件に止めておくのだった……




