3312手間
人らしき骨の周辺を慎重により分け、何か遺品となる物でもないかと探っていると、骨の一部ががさりと崩れ、まるでこの骨は自分の物だと言わんばかりに頭蓋が一つ転がってきた。
「これはゴブリンのモノ、ではなさそうじゃな」
転がり出てきた頭蓋はゴブリンのモノに酷似しているが、ワシの知るモノに比べて随分とこちらのモノはしっかりしている印象だ。
とはいえ明らかに人の物ではないのは分かるので、これは恐らくホブゴブリンの頭蓋なのだろうか。
となるとこの人らしき骨はホブゴブリンの骨であろうか、ゴブリンの骨は子供のものに似ているので、大人の体格に近いホブゴブリンは同じく大人のものに似ていると考えても良いだろう。
「ここにあるのはご丁寧に骨だけのようじゃしの」
その後もしばらくガサガサと骨を探り、遺品になりそうな物がないのを確認すると、ここに人の骨はないのだろうと趣味の悪い骨の玉座を燃やし尽くす。
「さてと、改めてみても、ここが最奥のようじゃな」
ぐるりと周囲を見渡しても人やホブゴブリンが通れそうな場所はなく、よくよく見れば骨の玉座が塞いでいた場所に隙間があるが、文字通り隙間でしかなく、横幅こそ人の背丈よりやや短いかくらいの広さはあるものの、高さは足首ほどしかなく、通れるとしても蛇やスライム程度であろうし捨て置いても良いだろうと判断する。
とはいえどこに繋がっているかは分からないので、周囲の岩をどろりと溶かしてその隙間を塞げば、これでほぼ完ぺきにこの洞窟は閉じたものとなっただろう。
「さて、帰るとするかの」
一つ息を深く吐くと共に踵を返し、念のために見逃した脇道が無いかを確認しながら来た道を戻る。
来た時と同じくらいの時間を掛けて洞窟の入り口へと戻れば、外はようやく空が明るくなり始めたところで、森はまだまだ闇深く、兵士や冒険者たちがそこで待っている、などと言うことはなかった。
「まぁ、妥当な判断じゃな」
目印もなく光もない、そんな森を突破して目的地に向かうなど、よほど森に精通した者でもない限り自殺行為なので、誰も居なくても当然だろう。
もしいるとすれば、ここを巣とするホブゴブリンくらいであろうが、地面を確認する限り、ここに逃げて来た個体の後には一匹たりとも戻ってきては居ないようだ。
「ま、一匹や二匹戻ってきたところで飢えるだけであろうし、戻るとするかの」
幸いと言えばよいか、巣の痕跡を確認する限りは、このホブゴブリンたちは人を襲っていない様なので、討ち漏らしがあったところで近々では問題はない。
とはいえ今後この辺りの人の往来が増えた時に被害が出る可能性があるが、数匹程度であれば直ぐにいなくなるであろうし、他に巣があるだろうがそれは騎士たちに巡回させ見つければよい。
「ホブゴブリンという種が居ると分かっただけで、今回は十分であろうな」
ついでに一つ巣を潰したのだ、今の時点ではこれ以上ない成果であろうと念のため周囲を確認しながら、少しだけ足早に野営地へと暗い森の中を進むのだった……




