3311手間
渾身、かどうかは分からないが、少なくともホブゴブリンにとって自慢ではあったのだろう。
魔法がかき消されたのが気に入らなかったのか、地団駄を踏み苛立った様子で何度も魔法を使うが、当然そのどれもがワシに届くことはない。
とはいえマナの動きを見る限り、奴が手に持つ杖は魔導具ではないようであるし、純粋に己の才覚のみで魔法を撃っているのだ、その点は手放しで褒めても良いだろう。
確かに魔法を使う魔物も居るにはいるが、それは鳥が飛ぶ程度の事で、元々備わっているモノと言えばよいか、さほど意識せずとも使える力だ。
「ゴブリンに魔法を使うモノはおらんかったからのぉ」
ホブゴブリンはゴブリンよりも知能は上であろうが、それでも使うには才覚もそうであるが、相応の努力もしたのであろう。
とはいえ独学であるがゆえに、この程度の魔法しか使えないのは対処する側とすれば幸いだろう。
「ふむ、見るべきところはあるが、マナの使い方も荒く収束も甘い。奥の手もなさそうじゃな」
魔法は使えてもそれを効果的に使うことは考えなかったか、その機会に恵まれなかったか。
なんにせよ乱暴に火の玉を連発するだけで、それ以上のことはなく、とうとう撃つのをやめ肩で息をし始めた。
つまるところこれ以上は何もないということ、なればもうアレに用はない。
「面白いものを見せてもらった礼じゃ、お返しに本物の魔法、ではないが、法術を見せてやろうではないかえ」
折角だからと魔晶石で杖のような物を創り出し、ホブゴブリンが撃ってきた火の玉など消えかけの蠟燭だと言わんばかりの炎の球を、杖の先をホブゴブリン突き付けて撃ち、ワシと違い魔法を防ぐ術のないホブゴブリンは、逃げようと少し身を捻ったところで炎の球の直撃を食らい、一瞬だけ悲鳴を上げたかと思うと即座に燃え尽き、足元に転がっていた骨の仲間入りを果たす。
「さて、他の奴らは……」
魔法を扱うホブゴブリンの足元に侍っていた奴らは、仇を討とうなどという気概もなく、少しでもワシから距離を取ろうと岩壁に身をこすりつけるようにして離れているが、これ以上奥もなく逃げることも出来ない彼らは、分かりやすいほどの恐怖の顔をワシに向けていた。
「まぁよい、別に虐めるような趣味もないしの」
カツンと杖先を地面に打ち付ければ、音に合わせるようにビクンとホブゴブリンたちが肩を揺らし、次の瞬間炎に包まれ一瞬で骨すらも焼き尽くされる。
「さて、趣味の悪い玉座じゃが、一応は確認しておかねばの」
静かになった空間に残ったのは、骨を積み上げただけの空しき玉座のみ。
とはいえ明らかに何かの遺骸を使って作り上げたモノだ、中に人のモノが紛れているとも限らず、もし遺品があるのならば回収してやらねばならない。
ワシは創り出した杖をさらに伸ばし、その先でかき分けるように、ガサガサと骨の玉座を崩してゆく。
「ふむふむ、殆どの骨は動物のモノのようじゃな」
ざっと見た限り、この玉座に使われている骨の大半はエサにでもした動物のものであることが分かった。
その中にいくつか人の骨のようなモノが見え、ワシは目つきを鋭くし慎重に人の骨らしきモノを動物の骨からより分けてゆくのだった……




