3302手間
兵士や冒険者たちが退避したのを確認すると、ワシは火球の光に照らされた岩がむき出しの山肌を睨み、ここらで良いかと当たりつけ腕を振れば、火球から矢の如き炎が飛び出し、当たりを付けた場所へと次々に突き刺さってゆく。
「ふむ、こんなところじゃろうかの」
いびつな額縁のように山肌を炎の矢が彩ったところで指をパチンと鳴らせば、今度は炎の矢が一斉に弾け僅かに跳ねた岩肌が次の瞬間に雪崩のように崩れてくる。
その土砂の流れがワシの下へとたどり着くよりも前に、ワシは橋桁と橋脚のような足場を魔晶石で創り出し、ひょいとその上へと飛び乗れば、先程までいた場所を容赦なく土砂が覆いつくしてゆく。
「む、少し勢いが強すぎたかのぉ」
土砂はこのままの勢いでは下の道まで覆いつくしてしまいそうだと、周辺の柵を土砂が破壊したあたりで障壁を使い土砂の勢いを削り大人しくさせる。
完全に土砂の流れが止まったところで障壁を消せば、がらがらと障壁付近にあった土砂が多少崩れた程度で再び流れるようなこともなく、完全に野盗どものアジトが埋まったのを確認すると、足場から飛び降りそれを消してから兵士たちの待つ野営地へと戻る。
「殿下、すさまじい音がしましたが」
「あぁ、完全に潰してきただけじゃ」
「鉱脈があると聞いていたのですが、それを潰してよかったのでしょうか」
「ふむ? それは誰から聞いたのじゃ」
「捕らえた者から聞きました」
「なるほど。それならば問題ないのじゃ、ドワーフたちが嗅ぎ付けておらんということは、もうほとんど枯れておったのじゃろう、野盗どもがこそこそと使う分には問題なかったやもしれぬが、鉱山として開発するほどの量はないじゃろう」
「そうでしたか」
もし嗅ぎ付けていたら、ドワーフたちが襲われていただろうし、鉱脈が枯れていたのは幸いだった。
「さて、夜明けまでは待機じゃ、残党がおるやもしれんから警戒は怠らぬようにの」
「かしこまりました」
まだまだ夜の闇は深く、今戻っても危険なだけだろうと、改めて待機を命じれば、そこはすでに予定通りの事なので、兵士たちはすでに野営の準備を終え、冒険者たちも各々のグループごとにテントを張って準備は万端のようだ。
そんな中、ワシは兵士が張った天幕に向かい、細々としたことを命じてから、簡単な寝具にくるまりすやすやと寝息を立てるのだった……




