3301手間
柔らかい地面を掘った穴に無造作に放り込まれた野盗たちをどうするかと言えば、当然燃やすのだ。
この辺りならば土をかぶせるだけでも問題はないだろうが、他の地域では凍ってそのまま残ったりして、それを掘り起こして魔物が食べたりするので、必ず燃やさなければならない。
それは当たり前の事であり、ではなぜ燃やさずにワシに報告が来たのかと言えば、燃やすのに燃料をこの場で言えば木を使うからだ。
神国は極寒の地だ、そんな場所では燃料は水のように貴重品だ、だからこそ、それを使用するにはその場で最も権力のある者の許可が必要なのだ。
「ふむ、どうせここは潰すからの、手持ちを使う必要はなかろう」
「それは一体?」
どういうことかと兵士が言葉を続けるより前に、小屋の一つを破壊し散らばった木片を穴へと放り込むように指示を出す。
命令された兵士たちは手早く小屋の残骸を穴に入れ、ある程度放り込んだところで火を点ける指示を待つが、わざわざ備品を使って火を点けることもない。
ワシは兵士たちが穴から少し離れるのを確認すると、肘を軽く曲げ人差し指を天に向けると、すっと前進を指示するように腕を動かせば、空に浮かぶ火球から火の玉が穴の中に飛び込み炎がすぐさま薪に燃え移り、野盗どもの遺体を焼き始める。
「ふぅむ、後は燃えるに任せようと思うておったが」
「何か問題でも?」
「いや、臭いがのぉ」
どうしてこう外道の肉の焼ける臭いというものは耐えがたい悪臭なのか、このまま燃やしていればこの臭いに耐えなければならず、それは勘弁してほしいと手を軽く振れば、大きな焚き火程度であった炎は渦を巻きはじめ、轟々と周囲の風を巻き込みながら大きくなる。
「これで燃え尽きるのも早くなるじゃろう」
「他の小屋なども破壊して焼べますか?」
「いや、それは後で纏めてやるのじゃ」
「分かりました」
木材にして運ぶのも手間であるし、放置していてはまた他の獣であったり野盗が居つくかもしれない。
ならば奇麗に破壊しておいた方が良いが、今から壊しても炎が野盗を焼き尽くすまでには間に合わないだろう。
であれば後でワシが纏めて吹き飛ばせば良いからと、進言してきた兵士を下がらせる。
そんなことよりも、ここにはもう用はないのだから、燃え尽きたのを確認するための要員を残し撤収させるように命令すれば、彼らは手早く荷を纏めて野営地へと戻ってゆき、それを見送ったところで丁度遺体を焼いていた炎がゆっくりと消える。
「この後は」
「ワシが纏めて吹き飛ばすからの、おぬしらもさっさと下がるのじゃ」
「えっ、分かりました」
吹き飛ばすと聞いて慌てて兵士たちが走っていくが、別にワシが彼らを巻き込むわけがないだろうと苦笑いしているうちに、実に素早い事に彼らの後姿は見えなくなっているのだった……




