3300手間
苛烈さに身を震わせている兵士たちであるが、野盗とはいえ容赦なく切り伏せ、ワシの話に興味がない者たちが中心に、その切り伏せた野盗どもを簡易的に掘った穴へとゴミを捨てるかのように打ち捨てている。
その姿は荒事に縁のない者からすれば、十分以上に苛烈と言われるような行為だろう。
「本と言えば! 貴族は秘密裏に影のように動く兵士を持っているとか書いてあったのですが、それは本当ですか?」
「ふむ? 家の規模などによっては私兵を有しておる家もおるが」
「いえ、そういった兵士のような動きをする者たちではなく、市井に紛れて政敵などの情報を収集したり、暗殺者に対して天井裏とかに潜んで対処したりなどするような者たちです」
「そういった者はおらぬ、前者は一部の文官などが市井からの情報を得るために、個人的に情報元にしておるような者はおるやもしれんが、後者のようなとんちきな連中はおらんのぉ」
「そうですか……」
文官などが情報を購入しているという話は聞くが、天井裏に潜んで密かに主人を護衛する者は居ない。
「そもそも護衛をするなれば、天井なぞに潜んで居っては、いざという時、咄嗟に守れぬであろうて」
「確かに」
「護衛であれば不寝番の者が常におるし、いざとなれば控えの間からも人が来るからの、それをなんぞ勘違いかして伝わったのではないかえ」
「えっ! 寝室に家族以外の人が常にいるのですか?」
「んむ、当たり前であろう? もちろん、未婚の令嬢などであれば侍女やらだけじゃがの」
まぁ寝室に不寝番の者を常に立てれるのは、王族を始めとした高位の貴族だけであろうが。
それでも天井裏に潜む護衛などというとんちきな者も、もしいたとすれば配置できるのは同じく高位の者だけであろうしわざわざ注釈を加える必要もないだろう。
「寝てる場所に他人がいるなんて、貴族も大変ですね」
「おぬしらとて、宿舎では他人が一緒に寝ておろうて」
「常に寝食を共にしている仲間ですから、もうほとんど身内のようなものですから」
「ふむ。ま、長じてからそういった生活をせよと言われれば戸惑うやもしれぬが、幼い頃からそういった生活をしておれば気にならんじゃろうて」
ただの習慣の違いと言えば彼らに反論の材料などあるわけもなく、なるほどとうなずいているのを見回していると、野盗たちの遺体を穴に入れ終えたと兵士の一人が報告しにくるのだった……




