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若い者たちが一喜一憂している中、ある程度落ち着いている者たちは、自分の好奇心を優先してきたのか、更に踏み込んだことを聞いてきた。
「貴族であるか否か、本人が勝手に貴族と名乗っていてもそれが長く続けば、その一家が貴族って否定できなくなったりはしないんですか?」
「ふむ? 随分と面白い事を聞くのぉ、しかし、うぅむ、それは…… そもそも貴族と勝手に名乗るは重罪じゃからの、まず長く名乗ることは出来ぬが、そこを判別する方法はあるのじゃ」
答えを言う前に、何故そんなことを聞いてきたのかと問えば、少し前に他人の家に勝手に住み込み、周囲の人も盗人猛々しくもそこに住んでいた一家を家主と勘違いしていたという話を聞いたという。
「なるほどのぉ。ま、結論を言えば今ではあり得ぬ話じゃ、貴族の数は細かく管理されておるからの、減っても増えても調査されるはずじゃ、勝手に貴族を名乗るのも重罪じゃが、勝手に貴族ではないと責務を放り投げるのも重罪じゃからの」
「細かく管理されているのですか」
「んむ、貴族名鑑という家名などを纏めた物があっての、いわゆる名簿じゃな、それをもとに管理しておる」
「神国中の貴族となると、すさまじい厚さになりそうですね」
「確かに分厚く巻数も多いが、真に貴族名鑑と呼ばれておる物には伯爵家の内、上位の家からしか記載されておらぬから、数の割には厚くはないのぉ」
「それでは管理できないのでは?」
「管理用のモノは便宜上、貴族名鑑と言っておるだけで、全くの別物じゃからの。入れ替わりの激しい男爵や子爵、ましてや騎士爵をわざわざ本にして残すのは全く以って無駄じゃからの、別の一覧として各地の領主が持っておるのじゃよ」
「はぁ……」
「まぁあれじゃ、男爵や子爵、騎士爵だけが書かれてる一覧があるから、それで管理しておるのじゃ」
「なるほど。では、伯爵以上の確認などは、そちらの本物の貴族名鑑で行うと」
「そういうことはまずあり得ぬがの。貴族名鑑に載っておる家名を名乗ろうなどと言う、命知らずはおらんじゃろうからの」
「はいはい! 本で見ただんですけど、どこどこの隠し子だ!っていうことは本当にあるんですか? それも貴族名鑑で分かったり?」
「基本的にそんなことは有り得ぬ。もし名乗り出た場合は、すぐに打ち首じゃからの、さっきも言うたであろう? 貴族を騙るは重罪であると」
「貴族、厳しいですね」
「それだけの特権があるからの、その分だけ制約もあるわけじゃ」
どういう本を読んだかは知らないが、正当性がどうのと言って隠し子や遺児を担ぎ出すという話をいくつか見た覚えがある。
だが実際にそんなことをすれば、王族相手であれば即反逆罪として一族郎党処刑されるだろうと言えば、兵士たちはその対応の苛烈さにそろって身を震わせるのだった……




