3298手間
色々と貴族の華やかな生活を聞いてくる彼らには悪いが、華やかな分だけ貴族たちはあくせくと働いている。
その部分はある程度は夢を壊さぬくらいにぼかして話し、嬉々として質問してくる彼らに答える。
「兵士から貴族に成れる事とかあるんですか?」
「ふむ、結論を先に言えば可能性はあるのじゃ」
とはいえやはり平民から貴族に成りあがるというのは夢のある話の最たる例で、案の定、兵士の一人が聞いてきたので、ワシは彼ににこりと微笑みながら頷く。
その瞬間、周囲からおぉと期待を込めた声が上がるが、残念ながらその期待を打ち砕かなければならない。
「とはいえ一代ではむりじゃろう。相当に運が良ければ騎士にはなれるじゃろうが」
「ん? 騎士様たちも貴族ではないんですか?」
「騎士も扱いとしては貴族ではあるが、厳密に言えば貴族ではないのじゃよ。とはいえほぼ全ての騎士は貴族が就くからの、貴族であると考えて間違いはないのじゃ」
「平民から騎士になった場合は、貴族じゃないってことですか?」
「いや、それでも一応は貴族扱いじゃ、ただし騎士の称号を得た本人のみであり、その配偶者や子供は貴族扱いされぬ。そして本人の代のみで、子供に騎士爵は受け継がれぬ、じゃからこそ厳密には貴族ではないのじゃな」
大抵の場合は、貴族の家から騎士になるので、何々家の次男や三男といった感じで、貴族の子息扱いであり、大体騎士になった者は子供も騎士になるので、ずっと貴族としてやっていける。
そして長く騎士の家系の場合は、大体どこかで男爵辺りの爵位を得て、一代限りを繰り返すのではなく永代の貴族となる。
もしくは最初から本家より男爵や子爵あたりの爵位を貰い、騎士として身を立てるということもあるが、それは本家が高位の場合なので、彼ら兵士には全く無縁の話であろう。
「つまり、兵士から騎士になっても、本人が死ねば貴族じゃなくなるから、子供も騎士に取り立てて貰わないとってことですか」
「んむ、そうじゃな。兵士から騎士に取り立てられるには、それこそ多大な功績が必要じゃが、騎士の子が騎士にというのは、本人の才や努力次第ではあるが、それでも努力でどうにかなる範疇じゃ」
ちゃんと騎士として仕事をしていたら、その子供を準騎士に推薦することは可能なので、その場合は兵士から騎士になる運や努力に才を考えると、随分と容易いだろう。
「すごい功績ってどのくらいの功績が必要なのでしょうか」
「そうじゃの、例えば王族や高位の貴族を助けたり、戦を終結させれるくらいの功を挙げたりとかかの」
例えばと上げた例に、兵士たちはそんなの無理だと天を仰ぐ。
彼らには悪いが、そのくらい厳しくないと際限なく騎士やひいては貴族が増えてしまい収拾がつかなくなってしまう。
「まぁ後はそうじゃな、貴族の令嬢に見初められるとかかの」
貴族と平民の結婚は、貴族側が騎士爵以外では結婚できないので、見初められた者がどこぞの貴族の養子にになり、そのあと婿入りなり騎士爵を得て令嬢が嫁入りするか。
どちらにせよ運などが必要な話ではあるが、見初められると聞いて、若い兵士たちは色めき立つが、ある程度の歳の者たちは彼らの顔を見て、実に皮肉気な笑顔を見せるのだった……




