3297手間
夢のある話というものは、そうそう転がっていないからこそ夢があるのであって、簡単に手に入ってしまっては夢などではないだろう。
とはいえ夢がない夢がないと嘆き続けれるようなものではなく、兵士たちもそれはそれと切り替えて、こんな機会はもうないだろうからとワシへと向き直る。
「ところで、お貴族様って普段はどんな仕事をしてるのですか?」
「ふむ? 基本的にはそうじゃな、兵士らの中にも予算や人事をやり繰りしておる者がおろう?」
「え? はい、事務仕事をする人を雇ってやらせています」
「それの大規模なものを普段はやっておる、無論細かくは身分などにもよるじゃろうが、概ねそんなものと考えておけばよい」
「あれの大規模な……?」
大抵の兵士たちはピンと来ていないようだったが、一部の者たちはやった事でもあるのか、遠い目をしているか意識が空の彼方に飛んでいるかのような顔をしている。
まぁ、大体の兵士は頭を使うのが嫌だから兵士になってたりするので、事務仕事なんてものは天敵であろう。
「とはいえ背負う責任はけた違いじゃろう、差配一つで人の命を左右するのも容易い立場じゃからの」
「想像が付きません」
「こればかりは、やってみんことにはの」
「貴族様っていうのは、パーティをしたりしてのんびり過ごしているものだとばかり」
「それも間違いではないがの。とはいえ夜会なぞもただ遊ぶためではなく、仕事の為でもあるがの」
「仕事ですか?」
「仕事の根回しをしたり、将来の為にどこぞと関係を強化したり、家族の結婚相手を見繕ったりの」
「考えるだけで面倒くさいですね」
「であろう? まぁ、じゃからこそ、その分だけ良い暮らしをしてるとも言えるがの」
平民が貴族という存在に触れたりするのは、大抵が華やかな場面だけだからだろうか、なぜか遊び惚けているだけの存在と思われているのは実に遺憾だ。
もちろん、平民が想像するような貴族そのままの者も居るにはいるが、殆どの貴族は真面目に仕事をしている。
わざわざ語る必要もないことだが、貴族の中には貴族とは名ばかりで、殆ど平民と変わらぬ暮らしぶりの者たちもいる。
いや、数だけを言えばそういった貴族の方が多いやもしれない、数が多い者を実態とするならば、多少裕福な平民、それが貴族の姿とも言えるだろう。
とはいえ夢のない話だと嘆いていた者たちに、畳みかけるように夢のない話をする必要もないだろうと、彼らには大変な部分と華やかな部分のみを語るに留めるのだった……




