3292手間
ワシの脅しは十分に利いたのだろう、護送される野盗どもがワシの視界から消えたあともその足音を聞いていたが、暴れるような音は聞こえなかったのでもう大丈夫であろうと周囲を見回す。
「殿下、この後はどうされますか?」
「そうじゃの。捜索を終えたら長居は不要じゃろう」
「ここの遺体などは、どう処分いたしましょう」
「そこはワシが纏めてやろう」
話しかけてきた兵士に答えながら再び周囲を見回せば、あちらこちらに野盗の死体が転がっており、そこだけを見れば襲撃された村人のようにも見え、兵士や冒険者があまり質の良い防具を着けていないこともあって、死体を一か所に集めるさまは知らぬ者が見れば彼らこそ野盗にも見えるだろう。
そんな感想を軽く頭を振って追い出し、あまり広くないアジトとはいえ、しっかりと捜索するにはまだ時間がかかるだろうと、椅子を創り出してそこへどっかりと座る。
「殿下、彼らが使っていたらしい武器などを発見しましたが、どうしましょうか」
「品質に問題が無ければ、接収すればよかろう」
「はっ、品質はよいのですが、いつも使う物と違いますので」
「だったら自分たちが貰ってもいいですか?」
兵士の一人が駆けてきて野盗どもが使っていた武器を見つけたといい、これも彼らがため込んでいたお宝同様に自分たちで使えばいいと言えば、兵の内で使っている武器と規格が違うから使えないと眉を下げる。
それをどこから聞いていたのか、冒険者の一人が自分たち冒険者に欲しいと言う。
「ふむ? いつもと違う武器なのはおぬしらとて同じじゃろう」
「騎士や兵士と違って、自分たちはおんなじもんを使うって訳じゃないですし、直すのも買い替えるのも、出費がバカになりませんから」
「なればよかろう、好きな物を持っていくがよい」
「ありがとうございます!」
彼はワシにビシリと頭を下げ礼を言うと、冒険者たちに野盗どもが残した武器を好きに持って行っていいと伝えれば、他の冒険者たちも酒でも振舞われたかのように、今にも飛び上がらんばかりの勢いで喜んでいる。
「おぬしらは、それほどまでに困窮しておるのかえ?」
「いえいえ、ありがたいことに頑張ればそれだけ贅沢できますし、ほどほどでも食うには困りません。ですが、騎士様や兵たちみたいに武器は支給されませんから」
「ふむ、まぁ困窮しておらぬならばよい」
最近は寄付だけして運営はすべてギルドに任せていたが、もしや誰かどこかで横領して冒険者たちにはまともにお金が払われていないのではと思ったが、どうやら違ったようで悟られぬように内心でほっと胸をなでおろす。
とはいえ騎士や兵士のように最低限の装備を支給されてるわけでもなく、自分で必要な物はすべてそろえなければならない、そうなるとどうしてもお金が必要だから、節約できるならばそれに越したことはないという冒険者たちに、ワシは少し懐かしい気持ちになり報酬に色を付けてやるかと目を瞑り考えるのだった……




