3291手間
ワシが野盗の頭たちを縛っている場所へともどれば、ちょうど兵士の一人が取り巻きの一人の腹を、剣の柄で強かに打ち据えているところだった。
「何をしておるのじゃ?」
「はっ。彼らを護送するために足を縛っていた縄を緩めたところ、逃げ出そうとしまして」
「ふむ?」
「監視の人数が減った事で、ここから逃げ出せると思ったのでしょう」
今にも血反吐でも吐きそうな表情でせき込む男を、じとりと睨みつけながら兵士の一人がワシの質問に答える。
一応隙は見ているのであろうが、人数が減り足の縄がほどかれたではなく、緩められた段階で逃げ出そうとしたのだ、随分とこちらをなめ腐っているように思える。
まぁ、不用意に足の縄を緩めた兵士たちも迂闊だったのであろうが、暴れられても困るし引きずって連れて行くのも面倒だ。
「おぬしらは、まだ自分たちの立場を理解はしておらんようじゃな」
そういってワシは剣の柄で殴られた者とは別の者をむんずと掴むと、灯りの為にまだ浮かべていた火球へと、ひょいと無造作に放り投げる。
投げた拍子に猿ぐつわが外れでもしたのか、汚い悲鳴が少しの間だけ辺りに響き渡り、幕を下ろしたようにピタリと途切れれば、残った野盗たちは顔を青くしたり震えたりと様々な反応をする。
「別にのぉ、おぬしらの知っておる、他の野盗どものアジトの情報なぞ、必ずしも要るという訳ではないのじゃよ?」
ワシの言葉に残った者たちは猿ぐつわを噛んだまま、むぅむぅと言葉にならない反応を見せるが、その感じから文句を言っていることは分かるが、目の前で一人処分されたのに何も分かっていないようだ。
「ま、何を言ってるかは分からぬが、やはりまだ立場を理解しておらぬようじゃな」
そう釘を刺したにもかかわらず、まだもごもごと文句を言っているようだから、今度は希望通りに逃げ出そうとした者を火球に放り投げる。
「おぬしらなぞワシらからすれば何の価値もない、むしろ放っておけば無辜の民を襲うのじゃ、害悪以外の何物でもない、そんなおぬしらの命を摘むなぞ、そこらの虫を潰すのとさして変わりない」
ワシが淡々と言っているからだろうか、よほど恐ろしかったのか、取り巻きのうちの一人が白目をむいて気絶する。
「随分と小胆な事じゃ」
脅しは十分に利いたと判断し、兵士に合図をすれば今度は逃げるなよと警告しつつ彼らの足の縄を緩め、気絶した男を叩き起こすと、立ち上がった野盗どもを囲むように兵士たちが立ち、剣の柄で彼らの背を殴り前に進ませると、一足先に野営地へと戻ってゆくのだった……




