3290手間
このアジトで一番大きな平屋は野盗の中に大工崩れでもいたのか、なかなかにしっかりした造りだが、所詮は野盗のアジトの建物、さほど広いわけでもなくワシが行った頃には中の捜索はすっかりと終えられていた。
そこではいくつかの木箱を運び出し、入ってすぐの部屋に集めている兵士がおり、彼に声をかけつつ蓋が開いている木箱の中を覗き込む。
「何か不審なものでもあったかえ」
「いえ、王太子妃殿下、装飾品などの特定できる物品は何も。その代わりと言っては何ですが、結構な量のお金とお酒をため込んでいたようでして」
「そうかえ、なればそれらはおぬしらで好きにするがよい。あぁ、冒険者たちとも分けるのを忘れぬようにな」
宴会をするためか入ってすぐの大きな部屋の他に、平屋の中は部屋はいくつかに分かれていたが、ぐるりと首を回せばすべてに目を行き渡らせることが出来るくらいの大きさだ。
先程ちらと貨幣が満載の木箱の中を覗いたが、彼らは兵士が言う通り、結構な量をため込んでいたようだが、わざわざ取り上げるほどの量ではなく、全部兵士と冒険者たちの懐に納めても良いと許可を出す。
それ以外はもう見るべきものは何もないだろうと、中に何があったを報告してきた兵士の話を聞き直ぐに踵を返して外に出る。
その背後では、金銀財宝とまではいかないが、野盗どもがため込んでいた金貨やお酒を好きにしていいと言われた兵士たちが、ワシが平屋を出たのと同時に歓喜の声をあげる。
「よろしかったのですか?」
「よい、このくらいの褒美があった方がよかろう。それに、この程度で今後真面目に働くようになれば、実に安いものじゃ。あぁ、おぬしから多少で良いから、教会に寄付をさせるのを忘れさせぬようにの」
「かしこまりました」
ワシと入れ違うように兵士長がやってきて、丁度下げ渡すということを聞いていたのだろう、回収しなくても良いのかと聞いてきたが、さほどの量でもないのでわざわざ回収する必要もないから好きにしろと、彼に改めて伝えておく。
とはいえすべて兵士や冒険者たちの懐に納めるのも外聞が悪いから、少なくとも良いから必ず教会や孤児院などに寄付をするのを忘れないようにと釘を刺すように伝えておく。
「何かすごい歓声が聞こえましたが」
「あぁ、ここの者たちがため込んでおった物を好きにしていいと許可を出したのじゃ」
「金や酒を分けるから、手が空いたものから来てくれ!」
突然この場に似つかわしくない歓声に、外に居た冒険者たちのリーダーが声をかけて来たので同じ説明をしようとしたところで、兵士の一人が外にまだいる者たちに声を張り上げ、回収したお金や酒を分けると声をかければ、外でも大きな歓声が上がり、我先にと駆けだしては、ワシの姿を見てすぐに興奮してませんよとでも言いたげな顔で、しずしずと歩き始める。
「おぬしも行ってくると良い」
「はい! ありがとうございます!」
ワシに話しかけたからか、すぐに動けなかった冒険者にも行ってくればいいと許可を出せば、彼は実にいい笑顔で返事をすると一歩だけ駆けだそうとして、他の者たちと同様、はっとワシを見て同じようにすまし顔になってそれだも段々と足早に平屋へと向かうのだった……




