3289手間
緊張した時などに心の臓の動きが跳ねるように、たとえ無意識であったとしてもマナの動きというものは変化がある。
脈を測ったり、心の臓の音を聞かねば分からぬそれとは違い、体内のマナというのは意識、無意識に対して敏感に反応する。
「寝入ったフリをする者というものは、こやつのように隙を伺ったり、必ず外に意識を向けておる。例え外に意識を向けぬようにと気を付けておったとしても、無意識の部分で動いてしまうからの。それを見れば見分けるのは容易いのじゃ」
「それはもしや、寝たふりだけでなく、隠れている者を探すのにも使えるのではないですか?」
「それはどうじゃろうのぉ。マナが見えておるということは、そもそも隠れておる者を見つけれておる訳じゃからの」
「殿下は見えているのに見えないとお聞きしますが、そういった者を探すのに重宝するのではないでしょうか?」
「ワシは済んだ泉の水などのようにして消えておる訳ではないからの。見ようとしていないモノを見たところで、見たとは気づかぬじゃろう」
傭兵などから話を聞いたのだろうか、別にワシは透明になって隠れている訳ではないので、マナを見て探すより普通に探した方が手間もないだろう。
とはいえ蛇のように熱を見る代わりにマナを見て探す方が、暗いところなどでは便利かもしれない。
「とはいえワシの場合は、星の一つ分でも灯りがあれば、洞窟の中であろうとも普段とさして変わらず見えるからのぉ」
「その、マナというものは誰にでも見れるようになるものなのでしょうか?」
「ふむ、マナを見れるか否かは才によるかのぉ。見える者には容易く見えるし、見えぬ者には何をしたって見えぬものじゃ。とはいえ最初は見えずとも、修練を重ねれば見えるようになった者もおるがの」
「修練とはいったい何をしたのでしょう」
「晶石を扱う者が、ひたすら晶石の目利きをし続けて、孫に仕事を譲る段になってようやく見えたと言っておったかの」
それでもなんとなく見える程度だったので、やはりしっかり見えるかどうかは天賦の才に依るだろう。
「それでしたら、剣の腕を上げた方が良さそうですね」
「そうじゃな。見えたところで人によって、その見え方は様々じゃ、ワシが言うたような使い道が出来ぬ見え方をする可能性もあるからのぉ」
例えばマナの多寡しか見えないという場合もある、疲弊でもしていない限り寝ていようが起きていようが、マナの量そのものに変わりはないので、寝たふりを見破るには向かない。
「さてと、何かあればそろそろ見つけてある頃合いであろうし、ワシはそれを見にいくかの」
「はっ、お手間をかけてしまい申し訳ございませんでした」
「よいよい、向上心は必要じゃからの」
ビシリと兵士らしい力強い敬礼に見送られ、ワシは当初考えていた通り、野盗の頭の平屋へと向かうのだった……




