3288手間
兵士の治療を受け、撤収の準備をする者やアジトを捜索する者に分かれバタバタしているところを、ワシも捜索に加わるべく、野盗の頭の住居であろう一番大きな平屋に向かう途中、護送の為に縛られている野盗の頭とその取り巻きの傍を通り抜けようとして、ワシはそのすぐ隣ではたと足を止める。
「ふむ?」
「どうかされましたか?」
気絶したまま縛られ寝転がり、反応のない野盗たちを覗き込むワシを不思議に思ったのか、近くで見張りをしていた兵士が尋ねて来たが、ワシは返事の代わりに野盗の頭ともう一人、その取り巻きを軽く蹴り飛ばし返事とする。
「殿下!?」
「隙を窺っていたようじゃからの、見張るならば油断せぬようにな」
「まさかもう起きていたとは、それにしても眠ったふりをしている者はよく見てきましたが、彼らのは気付きませんでした、殿下はよくお気づきになられましたね」
「なに簡単じゃよ、マナを見れば起きておるかどうかなど、一目瞭然じゃからの」
兵士たるもの気絶したふりをしてやり過ごそうとしたずる賢い者の対処は良くしていたらしいが、その中でもこいつらの寝たふりは随分と上手だったようだ。
しかし、ワシからすればどれほど上手く繕おうとも、寝ているか否かは下手な役者を見分けるよりも容易い。
「後学の為にも、その方法を教えて頂けませんでしょうか?」
「なに、やり方は簡単じゃ。マナを見ればよい、それですぐにわかるが、マナの見え方は人によって違うからの、ワシのやり方がそのまま通用する可能性は低いがの」
「彼らの前で言ってよろしいのですか?」
後でワシが言うとでも思ったのか、まさかここで直ぐに言われて慌てたのか、鳩尾を蹴られてせき込む野盗とワシとの間で兵士は視線を彷徨わせる。
「言うたであろう? マナを見ること、そしてワシと同じようにマナが見えなければ意味がないからの」
「それはつまり私どもも、同様に見えないということでは?」
「そうじゃな。とはいえ応用は出来るじゃろう」
そう言って見える見えないお構いなしに、ワシは話を続ける。
まず寝ていればマナは穏やかに体の中を流れている、それはさながら穏やかな川の流れのようで、話しかけられたりすれば寝ていても反応するが、それは水面に石を落とした波紋程度の動きで、起きなければ直ぐに元の穏やかな流れへと戻る。
「つまりその流れが激しくなれば、起きているということでしょうか?」
「んむ、とはいえまだ寝ておるが起きる直前くらいにはもう動きが活発になるからの、寝ているか否かの判断には使えぬ」
「ではどうやって?」
眠りが浅くなると共にマナの流れも段々と強くなるので、寝ていたとしてもマナが激しく流れ始めるので、狸寝入りかどうかの判断には使えない。
ではどこで判断するのか、それはマナが外を向いているか否かだと言えば、ワシの話を聞いていた兵士や冒険者たちはそろって首をひねるのだった……




