3287手間
太ももの大きな血管を幸いにも避けていたとはいえ、場合によっては死にかねない、処置によっては怪我が直接の原因ではなくとも感染症でこれまた死にかねない。
そんな中でワシがあっという間に怪我を治したのだ、周囲の喜びようはすさまじく、怪我をしていた本人も傷と痛みがなくなったことに驚いた後に喜び立ち上がろうとしたが、体を起こしたところで半分も上体を動かすことも出来ずにがくりと崩れ落ちる。
「おい! 大丈夫か」
「う、動けない……」
「急速に怪我を治したからの、その反動じゃ」
「彼は、その、大丈夫なのでしょうか?」
「酷く疲れておるだけじゃからの、問題はないのじゃ。体力を削らぬ場合は寿命を削ることになるからの、ま、甘んじて受け入れることじゃ」
「いえ、文句などあろうはずもございません」
ワシに大丈夫かと聞いてきた兵士は、青い顔をしてぶんぶんと勢いよく頭を横に振り、怪我が治った兵士も先ほどは治った興奮で動けていただけか、地面にぐったりと倒れ伏したまま、少しだけ首をこくこくと縦に振る。
「さて、他に酷い怪我をしてるものはおらんかえ」
「いえ、彼以外はおりません」
「んむ、それは重畳々々」
他に重傷の者は居ないかと聞いたが、どうやら運の悪い彼以外は軽傷の者しかいないようだ。
なれば当初の予定通りに撤収の準備をするようにと伝えれば、ちょうど倒れている彼を治療しようと医療品を持ってきていた兵士たちに、もう怪我は大丈夫だと伝え、一足先に担架で運ばれる兵士を見送る。
「捕まえている者たちは、いかがいたしますか?」
「しばらくは起きぬじゃろうから、今のうちに捕縛して、自死も出来ぬようにしておくように」
そう言ってパチンと指を鳴らし魔晶石製の檻を消しておく。
「後はそうじゃの、人質などはおらんが、念のために小屋の中の捜索じゃ」
「かしこまりました」
人質は居ないが、盗品などはあるかもしれない。
いや、確実にあるだろうと、わざわざ攻撃するときは倉庫や頭の居た大きな平屋は吹き飛ばさなかったのだ。
ワシの指示を受け、撤収の準備をする者、アジトの捜索をする者などに分かれ素早く動くのをしばし見守った後、せっかくだからとワシも頭の居た平屋を覗いていくかと、そちらに足を向けるのだった……




