3285手間
ワシが火球で辺りを照らしたことで双方驚くが、兵士や冒険者たちがいち早く我に返り、ランタンを持っていた者たちが下がり、他の者たちはじりじりと野盗たちとの距離を詰める。
そうなると焦ってくるのは野盗たちで、人数こそさほど変わらないが、着の身着のまま武器などを手にしていない者が殆どだ。
追い詰められたネズミは猫にも噛みついてくると言うが、それは人も同じ、そしてそうなった者たちというのは存外手ごわい。
「こうなったら全員突っ込んで一人でも逃げるんだ!」
「おっとそれは困るのぉ」
野盗の頭が号令をかけ、運よくか運悪くか、武器を持っていた手下が兵士らに突っ込んでいこうとするが、装備に差があるとはいえ後はなく死に物狂いの者を相手にすれば、兵士や冒険者たちに死傷者が出るだろう。
一人一人に障壁を使い当たっても問題ないようにすることも可能だが、それに味を占めて変な癖などがついては彼らの為にもならぬだろう。
ならばと指を鳴らせば、火球からいくつもの小さな火の玉が流星のように尾を曳きながら、武器を持った野盗に降り注ぎ、火の玉に当たった野盗どもは断末魔をあげる間もなく風に攫われた塵のように消えてゆく。
当然その姿を後ろから見ていた残りの野盗どもは、武器や手に持っていた石を放り出し、情けない声をあげながら逃げ場がないと分かっていながらも、門とワシから離れるように逃げてゆく。
「今だ! 全員かかれ!!」
今度は兵士を取りまとめている者が剣を振り上げ号令をかければ、意気軒昂となった兵士や冒険者たちがアジトの中になだれ込み、逃げていった者たちを追いかけ、命乞いをする野盗たちを切り捨ててゆく。
「くそが…… おい、お前たち今のうちに」
「おっと、逃がすわけがなかろう?」
混乱のさなか、こっそりと逃げ出そうとしていた野盗の頭とその取り巻きたちを魔晶石製の檻で閉じ込める。
彼らは閉じ込められたことに驚いたものの、流石に頭やその取り巻きだけあって、どこに隠していたのかナイフを取り出し檻を斬りつけるが、ただのナイフで魔晶石を傷つけることなど出来る訳もなく、難なく弾かれナイフの刃が欠ける。
「ワシから逃げれるわけがなかろうて。ま、これはおぬしらを守る為でもあるからの、諦めて大人しくしておくことじゃ」
彼らは他のアジトの場所の情報を持っている、もちろんそれが正しい訳もないだろうが、ある程度の位置を把握できるだけでも野盗討伐の助けになるだろう。
なので意気軒昂となっている兵士や冒険者たちに、勢い余って彼らも切り伏せられては困るので、檻は逃がさないと同時に彼らを守る為のモノでもある。
「王太子妃殿下、野盗の掃討完了しました」
「んむ、御苦労じゃったな」
彼らが突入してからあまり時間は経ってないはずだが、念のためにと周囲を見回してみれば、隠れたりしているような者は居ないようだ。
「彼らは如何しますか?」
「こやつらは、他の野盗のアジトを知っておるようじゃからの、聞き出すまでは生かしておくつもりじゃ」
「かしこまりました」
野盗の頭たちはワシの言葉を聞き、最後の抵抗とばかりに檻を持ち上げようとするが、どれほど軽そうに見えても魔晶石はすさまじく重い、彼らが持ち上げることも出来る訳もなく、バチンという何かが弾ける音と共に、檻を握っていた者たちがゆらりと後ろに倒れるのだった……




