3284手間
坑道を塞ぐ炎から逃げるように、ワシが吹き飛ばし門の残骸などに揺らめく小さな火に惹かれるように、わらわらと野盗たちが駆けていくが、門を越える手前で彼らの先頭を走っていた者がピタリと足を止める。
一応の警戒心というものは残っていたのか、後続も足を止め先頭の者がじりじりと下がるのに合わせて彼らも後ろに下がる。
何があったのかと思ったが、その答えはすぐに光とともにやってきた。
野盗たちが動きを止めたのは、夜警用の光を簡単に遮断できるランタンを掲げた兵士や冒険者たちが、煌々と灯りをともしてやってきたからだ。
「そう言えば何を合図にするかは、言うてはおらんかったが、ふむ、よい働きをするものじゃ」
「くそが、すぐそばに兵を隠してたのかよ。約束を破るのか!」
「約束とはなんじゃ?」
「シホー取引とやらをすると言ったじゃないか」
「いや一言もいうておらんが?」
司法取引と言っているが、実際はただの命乞いだ。
無論ワシは命乞いをしたいのかと聞いただけで、それを受けるとは一言もいっていない。
他の野盗どものアジトの位置を知っている者を集めさせた後に、ワシはただ兵士たちが入りやすいように門を吹き飛ばしただけ。
「それにのぉ、もし仮に了承したとしてもじゃ、おぬしは嘘をついたからの、無効じゃ無効」
「お、俺が一体いつ嘘をついたと」
他の奴らのアジトを知っているのは本当で、集めた恐らくは幹部連中も場所を知っているというのは本当。
では何について噓をついたのかといえば、答えは単純にして当たり前だが自首するという言葉だ。
「大方、他の奴らにかかずらっておる内に、自分たちはさっさと逃げおおせる腹積もりじゃったのじゃろう」
「だが、他の奴らのアジトの場所が分からないのは困るだろう」
「はっ、野盗が野盗に、素直に己の場所を教える訳がなかろう。とはいえ闇雲に探したり、被害から推察する手間が省けるのは間違いないのじゃ」
「じゃあ」
「聞き出す方法なぞいくらでもあるからの」
悪党の言う、必ず贖いますなどという言葉を信じる者がいるものか。
そんな嘘を見抜けぬ間抜けなど居るはずもない、そんなやり取りをしていたが、野盗の人数が比較的多く、照らされていない場所からの襲撃を警戒してか、兵士たちと野盗の間はさほど詰まっていない。
ならば明るくしてやろうと、ワシが指を天へと向ければ、暖炉の炎を丸めたような煌々と輝く火球が、アジトの上空に現れるのだった……




