3281手間
突然の絶叫にその場にいた者が振り向けば、その主は左腕が燃え上がり、必死になって火を消そうと腕を振り回したり地面を転げまわっているが、当然ワシが点けた火がその程度の事で消える訳もなく、腕が燃える激痛でうずくまる男にワシはゆったりとした声音で話しかける。
「さて、ここにおぬしらに攫われたりなどで、意思に判して連れてこられた者はおるかえ?」
「い、いない! 今はいない!!」
「てめぇ! そこは嘘でも居るって言っておけば」
「素直に言った! 言ったから! 消してくれ!!」
「うむ、消してやろうではないかえ」
腕を焼かれている男の叫びにワシは一つ頷き、パチンと指を鳴らせば炎が男の全身を包み込み、悲鳴を上げる間もなく塵一つ残さず焼き尽くす。
「消すんじゃなかったのか」
「そもワシは消すとも言っておらんし、そういったことを匂わせたこともないぞ?」
目の前で人が燃え尽きる、そんな尋常ではない光景に少し呆けていた野盗の頭が、何が起こったかを理解したのかワシの方へと向き直り声を荒らげる。
しかし、ワシはただ単に腕を焼き人質などが居るかどうか聞いただけで、そも答えたら消すなどと確約したり、そういったことを匂わせることも言っていない。
「だが消してやると言ったじゃないか」
「うむ、じゃから消してやったじゃろう?」
「外道が、慈悲はないのか」
「おぬしらがその言葉をいう道理はないじゃろうし、当然慈悲もあるわけがあるまい」
そも野盗は問答無用で首を斬る対象なのだ、攫われてきて無理やり働かされていたなどでない限り、そこに情状酌量の余地など一分もない。
「つまり、てめぇをどうにかしねぇ限りは、俺たちはみんな殺されるってことか」
「そうじゃな。まぁよくある、おぬしらが言う所の野盗狩りじゃ。運が悪かったと諦めることじゃ」
「くそが」
野盗の頭は短く悪態をつくと、舌打ちを一つ、そして何を思ったか指笛を思いっきり吹くと、その瞬間蜘蛛の子を散らすように野盗たちが一気に逃げ始めるのだった……




