3279手間
戦場でいったい何を見たのか、ワシ以上に取り巻きの者たちが興味津々な様子であるが、よくもまぁこの状態で話に聞き入ろうと思うものだ。
とはいえワシも話を中断するような無粋な真似をするつもりもないので、彼らの態度はそれを感じ取ったか、単純に移り気で楽観的なのだろう。
「その時、俺は砦の上で見張りをしてたんだ、敵がでけぇバリスタみたいなやつを出してきて」
「頭、バリスタってなんすか」
「くそでけぇ弓みたいなモンだよ、ただそのバリスタが撃つのは矢じゃなかったがな」
「ほう、あの雷を撃つ魔導具を見たのかえ」
「信じられない物を見たと思ったが、それ以上に信じられなかったのは、てめぇだ」
「ふむ?」
「雷なんて避けれねぇし、当たれば死ぬもんだ。普通はな、そのバリスタの雷に打たれて平然としていたばかりか、雷を撃ち返しやがった!」
何かを振り払うかのように、野盗の頭はダンッと地面を踏みしめ語尾を荒らげる。
「流石にそれは、なにか見間違えたんじゃ」
「あんなもんを見間違えるわけないだろう」
「ワシとしても、はったりと思われるのは癪じゃからの」
そう言って注目を集めると、両手を肩幅ほど離してその間に目に見える形で雷を迸らせる。
バチバチという派手な音に野盗どもは後退り、慌てて手近にあった石をワシに向かって投げつけるが、飛んできた石はワシの手の内にあった雷が、獲物を見つけた蛇の如く向きを変えて石を撃ち落とす。
「おっと、余計なことはせんことじゃ。ワシの炎はもちろん、雷からも逃げられる訳がなかろう?」
「悔しいが…… てめぇら余計な手出しをするんじゃねぇぞ。集団自殺に付き合うつもりはねぇからな」
「野盗などしておる時点で、手の込んだ自死であろうに。しかし、戦の最前線に配置されるような傭兵であれば、こんな事をせずとも食えてはおったろう」
「はっ、あんなみみっちぃ報酬で満足できるかよ。ガッと稼いでバッと使う、それがロマンってもんだろう」
「ふむ? まぁ、理解できぬ話ではないが、身の丈に合わぬから落ちぶれておるのじゃろう」
一気に稼いで一気に使う、ハンターであったり探索者であったり、明日生きてるか分からぬからこその生き方であろうし、それにあこがれるような者が多いのも知っている。
しかし、それは何より一気に稼げるからこその生き方であるから、それが出来ぬ者がやるようなことではないと野盗ならそれが出来ると嘯く男を鼻で笑うのだった……




