3276手間
広場で待機していた兵士や冒険者たちに状況を伝え、闇夜に乗じて襲撃をかける為にそのまま待機する。
陽が沈む前に彼らが突入する経路を確保するため、土砂崩れを除去しそこから突入できるようにしておく。
幸いにも土砂崩れが起きている箇所は集落からは死角になっているので、除去をしたところで見つかることもないだろう。
そうこうして陽が沈み辺りがベルベットのような闇に包まれたころ、再び森から集落へと近づき周辺を確認する。
夜になったからといって集落の周辺に見張りが出てくるということもなく、外への備えは昼間同様に櫓に二人いるだけだった。
更に櫓に居る者たちは発見を恐れてだろう、灯りなどもなく一応は夜目の利く者たちを選んではいるのだろうが、昼間でも見つからなかったのだ、当然闇に乗じて動くワシを捕らえることなど出来ずに、やすやすと侵入を許している。
「ふむ、実に無防備じゃな」
集落の中は見張りが巡回しているなどと言うこともなく、しんと静まり返っており、ワシの独り言はひょうと山肌に吹く風に容易くかき消された。
当然巡回も居ないのだから篝火など焚かれていることはなく、闇に沈んでいる集落は小屋の中で灯りを点けている所がよく分かる。
「灯りがついておるのは、坑道の小屋と頭が居る平屋の二つかの」
こんな闇夜に森を抜けてくるような者は普通はおらず、唯一の道も土砂崩れで塞がっていると思っているであろう彼らからすれば、坑道を見張っていれば誰かが入ってくることはないと、考えているのだろう。
平屋の方からは酒でも飲んでいるのか、陽気な声を調子はずれな歌声が聞こえているという実に油断しきっているので、襲撃者からすれば実にありがたい状況だろう。
それに見張りが立っているような場所がないということは、野盗以外の者がいないということでもあろう。
ならばまずは逃げ先を潰す為にも唯一の逃走路である坑道を潰す為にもと、坑道の小屋に火を放つ。
当然普通の炎ではないので、一瞬で小屋は火に包まれ、中から悲痛な叫びが聞こえてくる。
その声に櫓に居た二人が火の手が上がっていることに気付き、火事だと叫び慌てて櫓から降りて集落を駆け回りながら火事だと更に叫んでいく。
叫び声に起きてきた者たちが、小屋の炎の勢いに驚きパニックになりながらも、水くみ用の池に駆けてゆき、側に置いてあった桶にたっぷりと水を汲んで小屋に必死に水をかけてゆく。
「何があった!」
「頭! 火事です!」
「そんなもん見りゃ分かる、なんで火事になってるかって聞いてんだ」
「見張り小屋の奴らがランプでも倒したんでしょう。俺たちが気付いた時には、もう小屋が炎に包まれてて」
「で? そのバカたちはどうした」
「最初に走った時は見てないんで、多分中で」
「そりゃおかしいな。ランプを倒したくらいで、中から逃げられないくらい早く火が回るか?」
野盗の頭たちが呑気に話している間にも、必死に水をかけて火を消そうとしている者たちは、火が消えないと悲痛な声で頭に助けを求めているがそれもそうだろう、何せワシの炎だ、水をいくらかけても消える訳がない。
そんな中、騒ぎを聞きつけて小屋から出てくる者も居なくなったので、そろそろ良いかとワシはパチンと指を鳴らし、今度は適当な野盗に火をつけるのだった……




