32手間
マザースライムの討伐から十日ほど経ち、二期が終わり三期となった。
女神さまのお願いの物があるダンジョンに行けるようになる十五歳まであと二巡り半。
慎ましく過ごすのなら、先日もらった報酬でその間ずっと食っちゃ寝生活できるほど蓄えはある。
そもそも、そんな生活に興味も無いしギルド規則で定期的に狩り等の活動を行わないとダメなので、やらないし出来ないのだが。
「と言う訳で、狩りの報告と魔石の買取を頼むのじゃ」
「何がと言う訳でなのかは分かりませんが、報告は承りました。魔石は査定をしますので、しばらくお待ちください」
受付嬢のフリーから魔石を渡された人が色々調べ始めているので、備え付けのベンチに座って待つことにする。
ここ数日で狩りだけでなく、いくつか技も覚えた。一応ワシオリジナルの技もギルドに登録はしたが、ワシ以外使えないだろうからほぼ形だけだ。
覚えた技は三つ、『縮地』と『地擦り』と『鎧徹し』。前者二つは体術の移動系の技、後者は拳法の技。
魔法が使えないため戦闘は全て魔手や近接頼みとなり、そのせいで飛んでいる奴、速い奴、硬い奴の三種類の相手に苦労させられた。
移動系で対空、対地の速い奴に対応し、『鎧徹し』で硬い奴の内部にダメージを、といった感じだ。
『縮地』は一瞬で十メートル程度の距離を詰めれるが細かい制御が利かず、『地擦り』はすごい摺足で、移動距離は短いが細かい制動が利くので二種類修めた。
ぼーっとしていると査定が出来たというので受付に行き、買取報酬を貰ってギルドを後にしようとすると、背後から声をかけられた。
「よぅ、順調に狩りやってるみたいだな」
その声に振り返ると、そこにはアレックスが立っていた。
「おぉ久しぶりじゃの、もう体調は大丈夫なのかえ?」
「殆ど寝てたからこっちは久しぶりって感じがしないが、もう体のほうは大丈夫だな。サンドラ達も大丈夫だ。インディだけはまだなんだけどな」
魔晶石のマナに当てられたせいか、通常よりもかなり長い期間臥せっていたが、先日治療院からの帰宅の許可が下りたようだった。
「ふむ、インディは無事なのかえ?」
まだ臥せっているという言葉に不安そうにすると、大丈夫だとばかりに頭を撫で。
「あいつは元々マナ耐性が低かったからな。治療師の話じゃあ命に別状はないし、それに後遺症?なんかの心配も無いそうだ」
「そうか、それはよかったのじゃ」
ほっと息を吐くのを確認するかのようにアレックスが頭をなでるのをやめる。
「そういや、セルカはこれからどうするんだ?」
「ワシか?そうじゃの…バックスがおる町を目指してみるかの。そのあとは東回りに街を巡ってみようかと思うのじゃが、アレックスはどうするのじゃ?」
「俺はこの街を拠点に護衛なんかだな。今日もこの後すぐ、西にある町へ向かう商人を折角だからとサンドラ達と護衛だ」
「そうか、ワシは明日出発する予定じゃから、ここでお別れかの。サンドラ達にもよろしくと伝えておいてくれ」
「ま、今生の別れって奴じゃないし、西の街にでも近づけば会うかもな。それじゃ達者でな」
「んむ、アレックスおぬしもな」
今度こそギルドを後にする。その足で雑貨屋へと向かい本を購入する。その後は特にやることもないので宿屋へと向かう。
この十日ほどで世話になったところにはあらかた挨拶をし終わっているし、明日の護衛を受けた商人と共に東へ向かえばしばらくこの街とはおさらばだ。
ちょっとしんみりしたところで気分を変えて、やろうと思っていたことを開始しようと施設で手に入れた研究員の日記を取り出す。
おもむろにそれについていたブックカバーを外し、日記自体はすぐに収納する。
「やっとこさこのブックカバーの大きさに合う白紙の本を手に入れれたのじゃ。もとは写本用らしいが、多く書き留められるしよかろうなのじゃ」
やろうと思ってた事というのは、日記を書いてみようという事だ。折角だから遺物のブックカバーを使おうと思ったことで、それに合う本を探すことになり、若干始めるのが遅くなってしまったが…。
「さてと、どれだけ続くかわからぬが、この旅の間ぐらいは書いてみようかのぉ…」
さっそくとばかりに、ブックカバーを付け替えたばかりの白紙の本の一ページ目を開き、併せて購入した筆記用具を走らせるのだった。
これにて第一章終了です!
ここまで読んでいただきありがとうございます
ユニーク3000越えとか戦慄してます。
次回は十五歳になり成長したセルカがこの街に戻ってきたところから再開しようかと。
道中は日記という形でダイジェス的に出していこうかと思います。
これからもよろしければ拙い小説ですが、「女神の願いを"片手ま"で」をよろしくお願いします。
 




