3273手間
耳をそばだてれば、ちろちろと水が流れる音が聞こえ、同じ方向から人が話し合っている声も聞こえたのでそちらへと屋根伝いに向かえば、山肌を削って作ったような壁から伸びた管の先に少し高さのある水飲み用の水盆とそこからこぼれた水を受け止める、ちょっとした水くみ用の池があった。
そのそばでは複数人の男たちが、実に律儀にも服などを洗ったりしながら、他愛もないことを話し合っていた。
「さっさと雑用できる奴を連れてこようや」
「前にそういって連れてきたやつのせいで、痛い目に遭ったのを忘れたのか?」
「だからこんなとこまで逃げてきたのは分かってるが、やっぱめんどくせーよ」
人を攫ってくる計画を立てるのかと思いきや、逃げられて通報でもされたのか、それを戒めるような話になっていた。
それに今の話を聞くに、雑用などに酷使するための者などは居ないと分かっただけでも良い。
「しっかしよぉ、逃げて来たばっかとはいえ、こう遠くからちまちまやんのも疲れるな」
「こっちの領は騎士とか兵士のやる気が高くてあぶねぇからな、面倒だが致し方ないだろう」
「わかってるって」
話を聞く限り、彼らはこの領では野盗として活動してはいないのだろう。
だが、ここは領境から遠く、戦利品を持って帰るにしても必ず巡回の騎士などの目に留まるはずだが、そういった報告も受けてない辺り随分と上手いことやっているのか、それとも領境を超えるルートがあるのか。
「けどよ、だからって廃坑を整備する必要があるか? 俺たちは炭鉱夫じゃないんだぜ」
「安全なルートの為だ。騎士たちも、まさか洞窟の先が廃坑に繋がってるなんて思いもしないだろ」
「まぁ、たまたま逃げ込んだ洞窟の壁が崩れなきゃ、俺たちも見つけれなかっただろうしな」
なるほど。どこからこいつらがここに入り込んだのかと思っていたが、どこぞの洞窟から繋がった廃坑で山を越えて来たのか。
それでは騎士たちも見つけるのは無理なのも致し方ないこと、
となるとこの集落のどこかに廃坑の入り口があり、その先は別の領に繋がっているという訳か。
「そんじゃま、後は任せたから俺はまた炭鉱夫に戻るぜ」
「おい、せめて干してから…… はぁ、もういい、さっさと行け」
洗濯するのに飽きたのか、話していた者に残りの洗濯物を押し付けて、ひょうひょうとした様子でどこかへと向かい、その言葉から廃坑へ向かうのだろう。
なら彼に道案内してもらうかと、彼が向かった先へと屋根伝いでひょいひょいと追いかけるのだった……




