3272手間
木々の間を吹き抜ける風のように集落の丸太で出来た塀へとたどり着くと、そのまま塀を駆け上がり櫓の屋根へと飛び乗る。
「ん? 今なんか飛び上がらなかったか?」
「どうせ鳥かなんかだろ」
櫓には二人いたらしく、そのうちの一人は目が良かったのか、ほんの一瞬の影でワシが通ったのに気付いたのか、声からして櫓から身を乗り出し上を見ているようだが、もう一人が鳥か気のせいだろと言うと、それもそうかと言って身を乗り出すのを止めたようだ。
「しっかし、こんな低い櫓で意味あんのかねぇ」
「これ以上高くすると下の道から、見えるからって言われただろ」
「だとしてもよ。木の枝しか見えねえじゃねぇか」
「仕方ないだろ。正面は土砂崩れで塞がってる、裏の廃坑道もまだ見つかってない、誰かがやってくるとしたら、ここからだけなんだからよ」
「それも街で傭兵や兵士が集められてるって話だったからだろ? まだ見つかってもないのに集めてるのはおかしい話じゃないか」
「タイミングからみて、ここが見つかったわけじゃないだろうが、うっかり見つかってまた逃げる羽目になったら嫌だろう?」
「だから見張りを強化ってのは分かるが……」
やはりここは野盗どものアジトなのは間違いないだろう、何せ兵士たちの動向を気にするのは商人か犯罪者くらいしかいない。
そして街には既にネズミを紛れ込ませているのか、とはいえそれが分かったとしても、ネズミを捕らえるのは無理だろう。
ただただ普通に暮らしており、時折騎士や兵士などの動向を伝えているだけなのだから、そもそも捕まえる大義名分がない。
「早く交代の時間にならねぇかなぁ」
「いや、さっき俺たちに変わったばっかりだろう」
おっとそれは良い情報だ、完璧に気配を消しているとはいえ、見られないに越したことはない。
ならば今のうちに集落の中を見て回るかと、櫓や周囲の堀の立派さに比べて随分と質素な小屋の屋根へと音もなく飛び降りる。
カンカンと響く音から鍛冶場もあるのだろうが、それにしては炉から立ち昇る煙が見当たらない。
きょろきょろと周囲を見回して、ようやく薄く煙が立ち上っている箇所を見つけ、立ち並ぶ小屋の屋根から屋根へと飛び移りながら煙が立ち上がっている所に向かえば、なるほど横に長い煙突の先に葉が付いたままの枝を重ねて、煙がもうもうと立ち上らないようにしているのか。
これで煙突の役割が果たせるのか、まぁ使えているのならばそうなのだろう。
流石に中を確認することは出来ないが、中から響く声を聞く限り、特に何の変哲もない鍛冶屋のようで、何か新たな情報が入ってくることはなかった。
ならばここにもう用はないと、何か無いかと耳をそばだて周囲の音を注意深く聞くのだった……




