3269手間
申請のない村落という時点で黒であり、問答無用で潰されても文句は言えないのだが、万が一ただ村長などの立場ある者たちがわざと黙っているだけで、村人たちには責はないかもしれない。
とはいえまずそれは有り得ないであろうが、野盗のアジトではなく税を払いたくないがために黙っているだけという可能性もある。
そして野盗のアジトであるならば、攫われて来た者たちがいるかもしれないので、少なくとももう一度確認する必要がある。
「絶対に野盗であるという確証はないんじゃな?」
「はい。……ただ、普通の村にしては警備が厳重すぎて、彼らの動きも怪しかったので」
「ほう? どこが怪しかったのじゃ?」
「どこがといわれると言葉にするのは難しいですが、勘といいますか、今まで対峙してきた経験からと」
「ふむ。とはいえ今一度確認する必要はあるがの」
畑を開墾し定住とまではいかずとも、腰を据えている様子を聞くに、まだ一人の判断だけで決める段ではない。
しかし、二度三度と偵察を行えば、相手に警戒どころか住居を捨てて逃げられるかもしれない。
野盗と聞くと粗野で考え無し、煽れば猪のように突っ込んでくる馬鹿というイメージがあるが、長く活動しているような者たちはかなり臆病だ。
もし偵察されてると分かれば、即座にアジトを捨てて逃げ去ってしまうだろう。
なればもう一度の偵察で野盗であると確定させ、間髪入れずに一網打尽にするのが理想だ。
「となれば、ワシが行ってそのままというのが一番じゃろうな」
「それが一番だろうね」
野盗のアジトと確定し急襲する場合、領内で一定以上の戦力を動かす必要があるので、本来であれば領主の認可が必要だ。
この場合は戦力というのはワシであるが、もう一度誰かに偵察させてワシが出るというのは実に手間だ。
なればワシが偵察してそのままワシが制圧する、それが一番早く一番確実である。
「あとは囚われておった者たちが居た場合に備えて、ふむ、兵士らと冒険者たちを連れていくかの」
「騎士たちはどうする?」
「こういった時は騎士ばかりが動くからの、たまには彼ら以外も働かせてやらねば」
野盗どものアジトから人質の救出、実に華々しい活躍だが、そういう時に表舞台に立つのは大抵は貴族である騎士たちだ。
そしてそういった華々しい活躍は人々の羨望の的となる、ならばたまには兵士や冒険者たちにも羨望の目を向けさせねば、彼らの意欲の如何にも関わってくる。
であれば丁度良い相手であるし、こういった時に動かすのが一番だろうと、兵士と冒険者たちに詳細は伏せ適当な理由を付けて招集をかけるのだった……




