3267手間
コツコツと乾いたペン先が机を叩く音が響き渡り、その音が向かう先には大きな背を小さく丸めているようにも見える騎士団長の姿。
もちろん、ワシとクリスの前でそのように姿勢を崩すことはなく、ぴしりと背を伸ばしてはいるが、内心では親に怒られている子供のように小さくなっていることだろう。
「大規模な野盗の拠点を見逃してたと」
「申し開きのしようもございません」
「別に責めている訳ではないさ、なぜこれほどまでの規模のものを、今まで見逃していたのかと聞いているんだ」
クリスの前には野盗の拠点に関する事をまとめた書類、そこには村が一つ丸々が野盗の拠点と化しているという報告が。
さらには偵察を行った冒険者によれば、畑仕事などを行っており、野盗として活動しておらずとも生活は出来るような段階まで開拓が進んでいるという。
「それほどまで発展するまで、何故君たちは見つけられなかったんだい?」
「以前に確認した際には、廃墟の状態で長く人が住んでいたことはおろか、我々以外に足を踏み入れた痕跡もなく」
「それで?」
「その後、土砂崩れによってその廃墟に続く唯一の道が断たれたことで、その先を確認する必要もないだろうと」
「断たれた道以外に、道は本当になかったのかい?」
「件の廃墟は山の斜面に引っかかるような場所でして、周囲は断崖絶壁、土砂崩れが起こった時点では発見には至らず」
だが野盗どもがそこに巣を作り、冒険者は見つけられたのだ、まず間違いなく他に道があったのは間違いない。
「では、君はどう思う?」
「えっと、その、私としましては、騎士様の判断は致し方なかったかと、思います」
そう何ともばつが悪そうに言うのは、野盗どもの拠点を見つけた冒険者の斥候だ。
「自分が拠点を見つけたのは本当に偶然でして、商人の落とし物を見つけるって言う依頼を受けた時に、怪しい奴を見かけまして、そいつをこっそりと追いかけたら見つけた次第でして。奴が使ってた道もかなり丹念に隠してあって、もし人がそこに入っていかなければ自分も見つけれたかどうか」
「なるほど。しかし奇妙なのは、そこまで野盗の被害があると聞かないことだ」
どれほど対策をしていようとも、網ではすべての水を留められないのと同様に、不届き者というのは現れてしまう。
だから野盗が居るのは致し方ないが、拠点を築くほどいるのに大規模な襲撃などがあったという話も聞いていない。
故にこそ発見が遅れたというのもあるだろうが、なんにせよ確認し次第拠点を潰さねばならないなと、クリスはコツコツと再びペン先で机を叩き始めるのだった……




