3264手間
せっかく作業を行っているのだ、近くで見てみるかとクリスたちが反応するよりも早く、ワシは縮地で鋳掛を行っているドワーフのすぐ近くに跳ぶ。
視線の先に突然ワシが現れ、クリスがあっと声を出し、建築家の彼女はワシが今いる場所と先程までいた場所を信じられないモノを見たかのように何度も往復してみる。
「ふむ、そんな風に雑に注ぎ込んでちゃんとくっつくのかえ?」
「うぉっ! ……ふぅ、突然出てくるな危ないだろう」
「じゃから蓋をするのを待っておったのじゃよ」
ワシがいきなり背後に居て、驚いて炉を倒しては危ないと、わざわざ彼が炉に蓋をしてそれを固定するのを確認してから声をかけたのだ。
「それに、雑に注ぎ込んでるってわけでもないぞ」
「ふむ」
「せっかくだ、次の所で見てみるか?」
「うむ」
ドワーフは寸胴鍋を持つように携帯炉を持ち上げると、足場を地面の上を歩くのと同様に何の気負いもなく進んでゆく。
「その持ち方は危ないのではないかえ」
「大丈夫大丈夫、この高さから落ちたところで別にちょっと痛い程度だしな。それに炉の蓋もこっから落としたところで、開かないくらいしっかりしてるからな」
「ふぅむ、まぁそういうのであれば」
ドワーフの後ろをついていき、次に鋳掛を行う接合部まで行けば、ドワーフは携帯炉を足場に置き座り込むと、腰にぶら下げている壺の蓋を開け、そこにへらを突っ込み白っぽい粘土のようなモノをヘラに乗せ、接合部の周辺へと土手を作るようにペタペタと貼り付けてゆく。
「それで溶けた金属が漏れんようにしておるのかの」
「そうだ。それで、ここに穴が開いてるだろう? こっから溶けた奴を流し込めば、中に刻んでる溝で隅々まで行き渡る。だから適当に注いでるわけじゃない」
「なるほど、そうじゃったか」
もとより鋳掛をする前提の構造だから適当に注いでいる訳ではないと説明しながらも、ドワーフは実に手慣れた手つきで鉄骨に開けられた穴へと溶けた金属を注ぎ、湿った粘土に触れたのかじゅぅっと何かが焦げるような音がした。
「その粘土のようなモノは湿ったままで良いのかの」
「あぁ、こいつは湿ったままで良い、というよりも湿ったままじゃなきゃ意味がない。自然に乾燥させちまうと、こいつはヒビだらけになって、そっから金属が漏れちまうからな」
「ふむ、そういうものなのじゃな」
こういうのは乾かしてからの方が良さそうな気もするが、それならばそもそも鋳掛るより前に塗っているかと納得し、後は同じ作業を続けるというのでこれ以上邪魔するのも悪いだろうと、ワシはクリスたちの下に再び縮地を使い戻るのだった……




