3263手間
骨組みの上で鋳掛を行っているのはドワーフの一人で、何やら接合部に粘土のようなモノを塗りたくったかと思えば、脇に置いてあった壺から赤く熱せられた金属をそこへ注いでゆく。
「鋳掛そのものは昔からあるやり方なのですが、彼らの持っている携帯型の溶鉱炉と、枠代わりのあの粘土はドワーフの秘術らしく、教えてもらえなかったと鍛冶師たちが嘆いていました」
「ま、ドワーフたちが駄目と言うのならば、なんぞおぬしらが使えぬ理由があるのじゃろう」
「使えない理由ですか。私からしますと、特に何かそういったモノがあるようには」
「そうじゃのぉ、例えばあの携帯炉じゃが」
そう言って少し角ばった壺のような指差し、マナを見ればわかるがとワシは言うが、魔導具を身近に使っていないとピンと来ないのか、ふむとワシは顎に手を当て考える。
「マナを普段使わぬ者からすると理解はしにくいじゃろうな。特定の才を持たねば使えぬと思うておけばよい、あとはそうじゃな、使ってる物の関係で軽々に人に渡すことが出来ぬモノとかじゃな」
「軽々に渡せない物?」
「ふむ、おぬしは建築家であれば、完成予想図なんぞを描くときに、顔料を使ったりはせんかえ?」
「はい。設計図には使いませんが、設計図では建った時のイメージが出来ないという方の為に絵を」
「では、その顔料の中に人に渡せぬようなモノが混じってはおらんかの?」
顔料に使う原材料の中には、毒となるようなモノもある、それに思い至ったか建築家の彼女はなるほどと納得してくれたようだ。
「あとは彼らの住むところでしか採れぬ物を利用しておるとかの」
「ドワーフとの取引は厳しく制限されておりますから、そうなると確かに使えませんね」
「なんにせよ彼らが許可したとて、ワシが認可せねば駄目じゃがの」
「では、逆に申せば王太子妃殿下のお言葉添えがありましたら、彼らが秘するような物も、と?」
「それはないぞ。あ奴らが駄目というのならば真っ当な理由があるということじゃ、なればワシがそこに余計な口を挟むことはないのじゃ」
素人が訳の分からぬことに口を出してもろくな事にもならない、それは専門家である彼女の方がよくよく分かっていることだろう。
確かにドワーフたちの技術は様々な者にとって垂涎の的であろうが、よく分かりもせずに使えばろくでもないことになるので、何かあればおぬしもワシがそう言っていたとワシの名を使ってよいので諫めておけと釘を刺しておくのだった……、




