3262手間
前回の視察からしばらくすると、カーンカーンと甲高い音が街中に響くようになり、それとともに木目の骸の上に、鈍色の骸の骨が段々と組みあがってゆく頃に、ワシらは再び建設現場へと視察へと赴いた。
「ふむ? 建材は白く塗るという話ではなかったのかえ?」
「その予定ではありますが、それは組みあがってからでございます」
「しかし、わざわざ組みあがってから塗るよりも、組む前に塗った方が手間がないのではないかえ」
「接合部はネジで留めるのでそれも可能ですが、これほどの大きさです。強度を増す為にも一部は鋳掛をするので、先に塗っているのは都合が悪いのです」
「なるほどのぉ」
鋳掛とは溶けた鉄なりを接合部などに注ぎ込んで溶接する技術、なるほど確かにそれを行うならば先に何某かを塗るのは都合が悪い。
「じゃが、一部だけなのかえ?」
「はい。仰られる通り接合部のすべてを鋳掛るのが良いのですが、一部はガラスが割れた際に取り外したり、また取り付けたりする必要がございますので」
「ガラス部分もネジで留めるのかえ」
「えぇ、はめ込むだけでは、ガラスが落下してしまう可能性がございますので」
「確かにの。ワシは別に平気じゃが、庭師らが怪我をしてはことじゃからの」
窓枠にはめ込まれたガラスは、蝋などを使ってはめ込んでいるだけなので、蝋が劣化したりした場合はガラスが外れてしまったりする。
普通の窓ならばそこまで危険ではないが、屋根などの高いところから落ちてきたら、下に居たものはただでは済まない。
「いえ、ガラスは石よりは柔らかいですが、当たれば危険ですので」
「ん? ワシは平気じゃぞ?」
「あぁ、セルカは言葉通り平気、というより効かない? 何と言えばいいかな、水に水をかけたところで何ともならないだろう? それと一緒だよ」
「は、はぁ? まぁ、王太子殿下が仰られるのであれば」
普通はガラスが落ちてきても、ワシのように平気と言い切れる者など居ないだろう。
それが信じられないのも致し方ないが、クリスが補足すれば建築家の彼女は納得するほかなく、引き下がり丁度鋳掛の作業が始まりましたと、骨組みの上に居る職人を指差すのだった……




