3261手間
資材が用意出来たというので、早速と主温室の建築に取り掛かっているのだが、比較的小さな温室ならばともかく、屋敷ほどの大きさの温室となると鉄骨をテントの骨組みのように立て組み立てるという訳にもいかない。
そして普通の家屋のように下から煉瓦や石材を組み上げていってともいかないので、まずは鉄骨を組み上げる為の足場を、贅沢にも木材を潤沢に使って建築している。
「これは何とも、打ち捨てられた獣の骨のようじゃのぉ」
「神都の方では考えられないくらい贅沢な木の使い方だねぇ」
「鉄骨を固定するまで、どうやって支えるかが懸念点で御座いましたが、王太子殿下が木材の使用許可を出していただき助かりました」
「どのくらい使用するかは事前に聞いていたが、贅沢な使い方とはいえ屋敷のように大きなものを建てるには、少し心もとない気がするんだが」
木で組んだ足場などを含めた骨組みは、横たわり朽ち果てた獣の骨のようにも見え、確かに屋敷を建てるにはクリスの言う通り少々心細いようにも思える。
建設現場から少し離れた場所で、建築家の女性を傍に置き説明を受けながら、クリスは色々と聞いている。
「鉄とはいえあの木材と殆ど太さは変わらないモノを支えるだけですので、そこまで頑丈な骨組みは必要ないのです。何より完成する前にはバラして運び出さなければなりませんので、あまり丈夫に作り過ぎるのも問題になりますから」
「なるほどね。ところで終わった後の木材はどうするんだい? あの量だ、薪だけにしても消費するのは大変だろう」
「仰られる通り、駄目になった部分は薪にしますが、他の部分は別の建築に使ったり、家具などに加工する予定でございます」
「別の建築にか、あれを別の建築に使えるのかい?」
「はい、殿下。お屋敷のように巨大なモノには無理ではございますが、庶民が使うような小さな物やまた別の足場などに使用はできます」
「なるほどね」
石材ほどではないが、木材も十分再利用するのが容易い素材だ、いや、加工のしやすさを考えるとずっと使いやすいだろう。
それを思えば、あれほどの量の木材をすべて薪にするのはもったいない。
「して、どのくらいで出来る予定かえ」
「何分にもこれほど巨大な温室は初めてですので、慎重に建築を行う予定ですのでまだまだ掛かるかと」
「ふむ、何もないのが一番じゃからの」
「ありがとう存じます」
予定を聞かれ工期を早めろとでも言われると思っていたのか、建築家の彼女は一瞬身を固くするが、特段なにもなく事故なく建築を進めるようにと言われ、ほっと息をついてから深々と礼を取るのだった……




