3260手間
王家故に蜂蜜は定期的に献上されているが、それはそれとして自家製といって良いかは分からないが、敷地内で生産される物は別であろうし、また一つ楽しみが増えたとほくそ笑んでいると、ダークエルフがニコニコと何やら箱を取り出して近侍の子に差し出す。
「それはなんじゃ?」
「こちらは里から持ってきた蜂蜜です」
蜂蜜の話をしていたら食べたくなるとでも思っていたのか、蜂蜜自体は屋敷にすでにあるのだが、彼女たちの好意を無下にすることはない。
とはいえまずは中身をと箱の蓋を開けた近侍の子が中を確認して首を傾げる。
「あの、これは蜂蜜ではなく、蜂の巣そのものでは?」
「えぇ、それは蜂の巣ごと食べれますので」
確かに蜂の巣はそのまま食べれるし、蜜蝋を使わないのであれば蜂蜜を絞る手間が減るので、巣ごと食べる地域も多い。
だから巣蜜などと呼ばれるそれは全くおかしいモノではないが、蜂の巣をそのままという都合上、巣に花粉などが混じって見た目が良くないのだが。
「ほう、これは随分ときれいな巣じゃな」
「はい、この蜜蜂は巣板ごとにはちみつや花粉、幼虫を分ける性質があるので、特に何もせずともきれいな巣が採りやすいのです。とはいえ狭い巣の中ですからどうしても花粉などが付いてしまうので、ここまできれいなものは選別しないといけませんが」
近侍の子に遅れて箱の中をのぞきこみ、想像していたものよりも圧倒的にきれいな蜂の巣に感嘆する。
花粉などの余計なものが含まれていないからか、正にはちみつ色の巣がみっちりと箱の中に収められていた。
「このまま食べるのも良いですし、焼いたパンやケーキの上に乗せて食べるのも美味しいですよ」
「ほほう、それは実に楽しみじゃ。ところで、これはどの程度は置いておけるのかの」
「そうですね、風味が落ちたり巣が溶けてしまいますので、すぐに食べた方が良いですが、だいたい二巡りほどは大丈夫かと」
「なるほど、それならば大して気にする必要はないの」
二巡りも持つのであれば、傷んでいるかどうかなどは特に気を張る必要もないだろう。
もともと蜂蜜は腐ったりしないモノ、巣がどうなるかが分からなかったのだが、よくよく考えれば蜜蠟なのだから、こっちもそうそう腐ったりはしないモノか。
「なれば早速パンケーキでも焼かせてお茶会としゃれ込もうかの」
「それは楽しみです」
土産としてもらったからには、このまま大事に取っておくというのも無粋だろう。
ならば早速話にあったパンケーキでも焼いて一緒に食べようと言えば、ダークエルフもこれが好きなのか、今までで一番良い笑顔を見せるのだった……




