3258手間
一先ず蜂たちのエサは庭の花で凌ぐことは出来るが、庭を見てダークエルフの一人は顎の下に手を当て少しだけ首を傾げる。
「この花の量ですと、あまりよろしくないかと」
「ふむ、この程度では足りぬと?」
「そうですね、もう一つの温室にも後日蜂を持ってきますので、その分を考えると花畑があるといいかもしれません」
「では、温室の近くに花畑を作らせるかの。他に何ぞ蜂を育てる時の注意点はあるかえ」
「巣箱を動かさないことですかね。蜂たちは頭がいいのですぐに巣箱がある場所を覚えてくれますが、覚えた後に位置を変えると別の巣だと思って帰ってくれませんので」
「確かに、いきなり家が引っ越せば帰り道を見失うからの。ところで、もし街の外にまで出て行ってしまえばどうなるかの」
「それは大丈夫かと。この蜂はそんなに遠くまでは移動しないので、だからこそ近くに花畑などが必要なのですが」
「なるほどのぉ」
かなり遠くまで飛ぶ蜂もいるようだが、この蜜蜂はあまり遠くまで飛ばないので、街から出て迷うようなことはないらしい。
「そういえば、蜜蜂と言うておったからには、巣箱からは蜂蜜が取れるのじゃろう?」
「はい。ですが煙で酔わせても刺される可能性がありますから、私たちがいつも使ってる服を頭巾を持ってきました」
「ほう、それは随分と用意の良いこと……」
いくら大人しいとはいえ、巣を破壊しに来る者に対しては果敢に襲い掛かってくる。
だから刺されないように専用の頭巾があるのだと、そういってダークエルフが取り出した頭巾らしきものを見てワシはぴたりと動きを止める。
それは確かに頭巾ではあるのだが、本来何もない顔をのぞかせる部分には何かの蔓で編んだ籠の蓋でも嵌めた、何とも言えない街中で着けていたら確実に不審者として捕らえられそうな見た目だ。
「それは、前は見えるのかえ?」
「はい。流石にかなり見づらくなりますが、前は見えます」
「それならよいのじゃ」
そう言って養蜂頭巾を被って何とも不気味な見た目になったダークエルフにワシは苦笑いする。
それにしても今は昼間なので問題ないが、もしコレを夜中にでも見れば化け物だと噂されそうであるから、必要ない時は被らないようにということを、遠回しにダークエルフたちにやんわりと釘を刺しておくのだった……




