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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで皇国へ
328/3466

308手間

 カルンが文官の仕事を視察に行くこと数日、最近では簡単な仕事を一緒にやっているらしい。

 今日はどんな事をしたとか、計算を間違ったなどと夕食のときに楽しそうに報告するカルンを一日の楽しみにしていた。


「そういえばカルンや」


「どうしたの?」


「スズシロを知らんかえ? 昼頃に城に向かってから帰ってこんのじゃが」


「んー自分は見てないなぁ…それにしても珍しいね」


 スズシロは侍中頭ということもあって、どうしても一日に何度か城に向かうことはある。

 しかし毎食の給仕には必ず戻ってくるというのに、今回に限ってそれがないのだ。


「おぬしは何ぞ聞いておらんかえ?」


「申し訳ありません、私ども侍従には侍中方の予定はまず教えて頂けませんので…」


「ふぅむ……」


 スズシロの代わりに、ワシの給仕を担当している侍従の一人に聞いても知らないという。

 またワシらの元には必ず侍中が一人か二人付いているのだが、その人たちにきいても陛下とのお話が程度しか聞いていないと。


「ま、そういう日もあるかのぉ…」


 お菓子やらお茶やらを供してくれる者を何人か捕まえたが、皆一様に答えるだけ。

 さてそろそろ寝ようかと寝室に移動して寝間着に着替えたところ、部屋の外から入室を求める声が聞こえてきた。


「セルカ様、入ってもよろしいでしょうか」


「うむ、よいぞー」


「失礼いたします。本日は夕餉の際にお側に侍ること(あた)わず申し訳――」


「謝らずともよい、そもそもおぬしは侍中頭であろう? ワシに侍っておるほうがおかしいのじゃ。気にすることはなかろう」


「お心遣い感謝いたします。ですがこれはセルカ様のお側に侍ることは、女皇陛下の命令であり私の願いでもありますので」


「大袈裟じゃのぉ…しておぬしがわざわざ来たのは、謝るためだけでもなかろう?」


 部屋に入ってくるなり平伏するスズシロに優しく声をかけるが、それでも尚平身低頭のスズシロに、彼女の気の済むようにやらせるかと小さく溜息をつく。


「はい、女皇陛下のご許可が下りましたので、明日は外出のご準備を」


「おぉ…ようやく城下町に行けるのかえ」


「申し訳ありませぬ、そちらはやはり警護や町の混乱を考慮するとやはり…」


「ぬぅ…では外出の準備とはどういうことなのじゃ」


「はい、霊峰フガクの麓にあるお社にでございます」


「あの山の麓に…とな? あそこまでとなると一日二日ではきくまい?」


「ですので明日、何かお持ちになるような物がございましたら、そのように準備していただければと…」


「ふむ…ではカルンにも伝えておいた方がよいじゃろうな、そこな侍従やカルンを呼んできてはくれんかの」


 どちらにせよ着替え終えた事も伝えねばと、控えていた侍従の一人を使いに出す。


「いえ、セルカ様それには及びませぬ」


「ん? カルンにはもう伝えておったのかの?」


 ワシより先にカルンにスズシロが伝えるとは珍しいものだと首を傾げれば、そうではないとスズシロは首を横に振る。


「霊峰フガクその麓の社…といいますか、社を中心とした町は男子禁制なのでございます。ですので王太子様にはセルカ様が向かっております間、こちらで変わらずお過ごしいただければと…」


「ふむ…」


 カルン自身の能力の制御はほぼ完璧といっても良いだろう、ましてや周りは獣人ばかりなのだ多少制御が甘くても問題ない。

 ワシが離れている間に、カルンをどうこうすることもありえないだろうし…そんな事をすれば大問題なのは子供でも分かること。


「わかったのじゃ」


「それと霊峰フガクに向かうにあたってなのですが」


「何ぞ問題でもあるのかえ?」


「いえ、問題につきましては些事ですので、セルカ様がお気にするようなことでは。兎も角そのような事ではなく海から離れますのでお刺身などは食べれなくなりますが、温泉の種類が増えますので楽しみにしていただければと思いまして」


「おぉお…それは…うむ、それは実に楽しみじゃのぉ」


 一緒に来れないカルンには申し訳ないが、温泉に入れる…それを思えば、今すぐにでも出発したくなるほど気分が高揚するのだった…。

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