3252手間
ドワーフたちが部屋を辞して行った後、そのままワシらは温室に植える花の相談を近侍の子らとする。
とはいえワシがアレだこれだと注文することはなく、殆どが近侍の子らの提案に頷くだけだが。
「皇国に普通にある花でもこちらでは十分珍しいであろうが、皇国でも珍しいと言われる花はあるかの」
「あるにはありますが、有名なものは鑑賞にはあまり向いては居ないかと」
「どういうことかの」
「一夜花とも呼ばれるモノなのですが、その名の通り夜に咲いてその夜の内に枯れる花なのです」
「なるほど確かに珍しいが、鑑賞には向かなさそうじゃな」
夜の内に咲いて夜の内に枯れる、確かに見るには夜に見る必要があるのであるし、観賞には向かないか。
花は儚く散るものではあるが、観賞するにはせめて数日は咲いていないと見ることも叶わない。
「他には何かあるかえ」
「有名なモノは似たような花や木ばかりでして」
「例えばどのようなものじゃ」
「数巡りに一度だけ咲いて一日で枯れる花や、数十巡りかけて伸び花を咲かせると数日で枯れる木などですね」
「ふむ、話題にはなりそうじゃが」
どれも珍しいは珍しいでも、その物が希少価値が高いというよりも花を見るのが難しいという意味で珍しいと言われる植物たちばかりのようだ。
とはいえそれも致し方ないものか、単純に希少価値が高いのならば即ち見つかってる数が少ないであろうし、そもそも見つかっていない草木も多いだろう。
確かに草花を愛でるということは獣人も好きであり理解はあるが、貴族のように一所に集めてという訳ではなく、自然に咲くもしくはそれに近しい形のものを眺めるのだから。
「しかし神子様、皇国の草花ばかりでよろしいのですか?」
「皇国は暖かいからの、暖かい場所で咲く花と寒い場所で咲く花は一緒には育てれまい」
草花は温暖な気候ばかりを好む種ばかりではない、寒く育つには厳しい気候を好む風変りな種もある。
そういったモノを一所で育てるのは難しく、温室である以上は暖かい気候を好む植物だけとなると、その殆どが同じ気候である皇国の草花ばかりを選ぶのも致し方ないだろうが、一応神国の暖かい気候を好むモノも選定しておくかといくつか候補を書き出しておくのだった……




