3251手間
ドワーフは描かれたスケッチをじっと見つめた後に、顎髭をしごくように撫で、それからゆっくりと顔を上げて建築家に向けて口を開く。
「この形状なら、枠組みは木材より鉄とかの方がいいかもな」
「それは何故ですか?」
「ガラスは結構重たいしな、これだけでかいと木材では歪んでガラスが割れちまいそうだ」
「その問題は枠組みを増やすことで、ある程度は大丈夫だと思いますが」
「中は温室なんだろう? ってことは植物を育てるんなら大量の水が必要になるだろうし、その湿気で木材だと腐るんじゃないか」
「そこは鉄も同じなのでは?」
「安心しろ、錆びにくい鉄がある、それと錆びにくくさせる塗料もあるが……」
「それは素晴らしいですが、何か問題でも?」
「その塗料は、今のところ白しかないんだ。それ以外の色にしようとすると効果が殆どなくなっちまってなぁ」
流石ドワーフというか、金属を錆びにくくさせるような塗料まで持っているのか。
しかし、今のところ白いモノ以外はないと悔しそうに言うドワーフに対して建築家の彼女はぶんぶんと頭を横に振って素晴らしいとドワーフの手を掴む。
「白は高貴な色です、王太子妃殿下の温室にこれ以上相応しい色もないでしょう」
「ふぅん、まぁ、確かに?」
白しかないと悔しそうにしていたドワーフは、チラと視線だけ動かしてワシを見てから、絶賛する彼女の言葉に対して実に嬉しそうに、しかしそれを極力隠すかのように同意する。
「ともかく、ガラスの枚数や寸法を確定させるためにも、急ぎ戻って設計図を完成させてきます」
「お、おう」
やはり建築家というか芸術家気質の者たちは思い立ったが即行動が多いのか、彼女もその予想に違わずスケッチなどをかき集めるようにして片付けると、御前失礼しますと一応の礼だけ残して風のように去っていき、その背中をドワーフと共にあっけにとられて見送った。
「おぬしはどうするのじゃ?」
「あれの言う通り、寸法とかが分からないと何ともならんからなぁ。まぁ、材料をかき集めさせるさ、屋敷くらいの大きさならいくらあっても問題はないだろう」
「それもそうじゃな。ま、居らんじゃろうが、なんぞ渋るような者がおれば、ワシの名を出すことを許そう」
材料を集める際に何か渋る者が居たりすれば、容赦なくワシの名を出せばいいと言いはしたが、ドワーフに対してそんなことをする者も居ないだろうが、動きやすい事に越したことはないとそう言えば、ドワーフも彼女ほどではなかったが素早い動きで部屋を辞して行くのだった……




