3249手間
建築家の覚悟が決まったところで、早速温室の設計について話し合わなければならない。
とはいえワシがすることは簡単な要望を伝えるくらいなものなので、別にここにいる必要もないのだが。
しかし、間に人を挟んでなどつまらないだろうと、挨拶が済んで尚ワシはここにいる。
「王太子妃殿下は、どのようなモノをお望みで御座いましょうか」
「ふむ、ワシとしては中央に木をいくつか植えられればよいのぉ。皇国から取り寄せようと思っておる木はどのくらい伸びるのかえ」
「二階建ての屋敷の屋根に届くかどうか、くらいに成長するモノを取り寄せようかと考えております」
「なれば、中央がそれより高ければよい」
「それだけでございますか?」
「んむ」
今までどれほどの無理難題を受けて来たのか、振り下ろされる真剣を捕らえようとでもしていたかのような表情だった彼女は、別の意味で驚いた顔を見せる。
「見た目の奇抜さなど必要ないからの、いや、ガラスばかりの屋敷というだけで十分奇抜じゃろうしな」
「ガラスに関しちゃ任せて欲しい。グラスなんかよりも透明度は少し劣るが、はるかに頑丈になる配合を見つけたからな、しっかりとした骨組みさえあれば壁として十分なもんが作れるぜ」
「それなんですが、ガラスを曲げたりできますか?」
「おう、出来るぞ」
「ある程度の曲面をもったガラスをある程度の数、用意することは」
「金型を用意すりゃそれも問題ないな」
「金型にガラスを注ぎ込んで作るのかえ?」
「いや、それだと泡が入って強度が落ちるからな。金型に板ガラスを乗っけてから温めて曲げるんだよ」
「なるほど?」
彼女の頭の中では何かすでに出来上がっているのだろうか、矢継ぎ早にこんなモノは出来るかどうかを聞いていく間を縫って、ワシもどんなものなのかと質問をするが、段々と専門的になってゆく話に早々とワシは間に入れぬと見切りをつけ、少し離れた場所にあるソファーにゆっくりと腰かけ話し合う二人をぼうっと眺めるのだった……




