3248手間
ドワーフはともかく建築家は神都から呼ぶだろうから時間がかかると思っていたが、どうやらクリスはこの領に居る者に声をかけたようで、やってきたのは新進気鋭と噂の建築家の女性だ。
そう驚くべきことに噂の建築家は女性で、普段は侮られぬように男装をして仕事をしているらしいのだが、流石に王家の前で偽ることは出来ないと、着慣れぬドレスを身にまとっているからか随分と緊張している様子だ。
「この度は私をご指名いただき恐悦至極に存じます」
「そう硬くならずとも良い、ドワーフたちが随分世話になったと聞いておるからな」
彼女は地上の建物の設計は門外漢なドワーフたちが、若い建築家に随分と設計や建てる時の注意点を知る上で随分と世話になったと聞いている。
そう、ワシも話には聞いていたのだがドワーフたちが男女の区別なんて気にしていないのと、ワシもその点に興味はなかったので今の今まで女性であるとは知らなかったのだ。
とはいえだからどうしたという話であり、ワシ自身も男女であるからどうなどと言うつもりもないし、なんなれば言われる方であったので、クリスは気に入らなければ変えてもいいと言っていたが、技量もドワーフが認めているくらいだ変える必要なぞないだろう。
「早速仕事の話じゃが、何をするかは既に聞き及んでおるかえ」
「いえ、それはまだ。ですが王太子妃殿下、私で本当によろしいのでございましょうか」
「ふむ? それは建築家としての技量でかの? クリスが呼んだのじゃ、なればその時点で問題はなかろう」
「その…… 女性がとなると」
その先は言いよどんで口にすることはなかったが、女性と知れたことで仕事を奪われたりしたことがあるのだろう。
でなければわざわざ男装などする必要もない、幸い彼女の顔立ちは凛々しいので、体の丸みを服やらで消して長い髪も縛れば、一目で彼女を女性と断じれる者もいなかったであろうし、だからこそ分かった時に苛烈な反応をした者もいたかもしれない。
「ワシはそんな下らぬ事は気にせんからの。なんなれば皇国は女性の方が立場が強い国じゃ、おぬしを重用する方が皇国の出となるワシならば当たり前の事であろう」
「ありがとう存じます」
「それにじゃ、男装が趣味などでなければ、今後は好きな姿で振舞うがよいじゃろう」
「それはどう言う?」
「王家の依頼をこなした者じゃ、女じゃろうが男じゃろうが、無下に扱うような者はおらぬ」
むしろ今後は我も我もと依頼が殺到することだろう。
当然その時にわざわざ男装する必要もなく、女だからと侮られるようなことはない、何せそんなことをすればワシも侮辱していることになるのだから。
「とはいえじゃ、それはすべて仕事を終えてからの話、もし満足いく仕事をしたのならば、なんぞあった時はワシの名を出すことを許そうではないかえ」
「ご期待に沿えるよう微力を尽くさせていただきます」
一介の建築家に渡す褒賞としては過分といっても過言ではない言葉に、彼女は息を吞み何かを覚悟したような表情で最敬礼をするのだった……




