3247手間
ワシとしては良いのだが、需要が見込めないとはいえクリスがそこまでガラスを気に掛ける理由に欠けるような気がする。
「この領の特産の目玉としてね、もっとガラスを押し出した方が良いと母上に言われたんだよ」
「ほう? 何故そう言ってきたのじゃ?」
「あのガラスで作ったグラスを気に入ったようでね。もっと価値を高める為にも、ということらしい」
「ふぅむ? 王妃が気に入ったのならば、それだけで十分のような気がするがの」
「神都周辺ではそうなのだろうけれどもね、こちらではその話が来ていないから需要が伸び悩んでいるんだよ」
「ワシとしては、どちらでもよいから問題ないがの」
今は待って欲しいと言われるよりは、どういった思惑があるか知らないが、欲しいと言われている方が色々とやりやすいので問題はない。
あとはドワーフのやる気次第だが、彼らは難しい問題があると言われれば燃える質なので、温室の計画を伝えれば喜んで参加してくれるだろう。
「しかし、全面ガラス張りというが、屋根だけではさほど響かぬのではないかえ」
「あぁ、だから壁も全部ガラスにする。王家の威光を示す為にもね」
「なるほど、それもあるのかえ」
屋根を全面と思っていたが、どうやら壁もすべてガラスにする腹積もりのようだ。
確かに小屋くらいの大きさで壁もすべてガラス張りというのは難しくはないが、屋敷ほどの大きさの温室をとなると王家の威光を示すにこれ以上のものはないだろう。
「設計はどうするのじゃ」
「建築家とドワーフで話し合って決めてもらうつもりだ。セルカは何か希望はあるかい?」
「ある程度大きな樹を入れば良いのじゃ。それ以外は特にないのぉ」
「それならばある程度自由に設計できるし、建築家も自分の名を挙げるために張り切るだろう」
確かに王家の為に温室を設計したとなれば、建築家としてはこれ以上ない名誉であり、一生くいっぱぐれることは無くなる良い話だ。
さらに言えば注文を付けるのはワシじゃから、そう難しかったり面倒な注文がないのも建築家としてはありがたいだろう。
ならば誰に声をかけるべきか、そこの選定は自分に任せてくれとクリスがいうので、こちらも面倒がなくて済むと頷けば、クリスは苦笑いしてから何やら手紙を書き始めるのだった……




