3243手間
マナが濃い空間を作る魔導具を作ること自体は自由だが、それにあたり一つ忠告というよりもアドバイスをしてやろうかと、少し静かになった技術者たちに話しかける。
「マナが濃い空間を作るならば、必ず淀まぬようにすることじゃな」
「確かにマナは停滞させると偏ると言われていますが」
「下にマナは溜まってゆくからの、特に穢れたマナが溜まると致命的じゃ。寝転がったりすれば息が出来ぬのも気付かずに、死ぬかもしれぬからの」
「それは…… そういえば古い坑道なんかで、空気を追い出すための魔導具を作った覚えがあるが、それと同じなのか?」
「そうじゃな。坑道よりはマシであろうが、気を付けるに越したことはないのじゃ」
「しかし、そうなると悪い空気が攪拌されて危険だし、定期的に換気するしかないんじゃ」
「悪い空気だけを通すような都合が悪い物もないし、換気した後に再びマナを充満させるコストを考えると、よほどの金持ちしか使えそうにないな」
木材を使えば穢れたマナをある程度吸収してくれるのだが、まぁ別にそれをわざわざ教える必要もないだろう。
あとは鉢植えなどで植物を置くと穢れたマナを吸収しほんのわずかにマナを放出してくれるが、大地に根を降ろしていないとすぐに枯れてしまうが。
となると、木を地面に直接植えてその周辺に小屋を建て、陽の光を受けれるように屋根をガラスにすれば……。
そこまで考えて、これではただの温室ではないかと、技術者たちに聞かれぬように口元を隠してクスリと笑う。
技術者たちには聞こえなかったが、近侍の子らには聞こえたようで、何があったのかとこそりと聞いてきた。
「いやなに、あやつらが今頭を悩ませておるモノじゃが、温室を作れば簡単に解決できると思うてな」
「そういえば、植物は穢れたマナを取り込んでマナを吐き出すのでしたね」
「僅かではあるがの。殆どの穢れたマナは根を通じて地脈に向かい、最後は世界樹に向かう必要があるからの。鉢植えやらではなく、直接地面に植わっておる必要があるが」
「確かに、それを個室でとなりますと正しく温室でございますね」
ワシらの会話は技術者たちには聞こえぬよう、薄い障壁を張って遮っている。
こういうモノは自ら気付いた方が良いであろうし、下手に気付かれてマナを変に集められたりしても困るので、気付かれてない方がワシとしてはありがたい。
「私としましては悪くはないと思うのですが、何故にかお聞きしても?」
「神国は世界樹の若木が育ちつつあるからよいが、帝国にそのようなモノはないからの。下手にマナを集めれば、当然その周囲のマナが薄くなるのじゃ。マナが薄くなれば人や植物も育ち辛くなるからのぉ、それではあまりにも不憫であろう」
「なるほど、確かにその通りでございますね」
それに一部にマナが集まれば、マナが薄い地域だとしても温室程度の植物では穢れたマナを吸収しきれず土に穢れたマナが溜まり、魔物などが発生する可能性もある。
そんな可能性を考えるならば、知らぬ方がよいモノもあるのだと、未だに悩んでる技術者たちに今の話はしないようにと一応近侍の子らに釘を刺しておくのだった……




