3241手間
技術者たちのああだこうだを眺めていると、近侍の子が傍にやってきて、技術者たちに聞こえない程度の声で話しかけてきた。
「神子様はこのような者たちに対して、もっと厳しく接すると思っておりましたが」
「きちんと弁えておれば、絶対に許さぬという訳ではないからの。無論、一線を超えるのなれば容赦なく処断するがの」
人が進歩するのは良い、生き物というのはそうであるべきなのだから。
しかし、その歩みで道を致命的に踏み外したのならば容赦なく切り捨てる。
「まぁ、あの様子では早々に処断されるような事にはならんじゃろうがの」
「私どもには彼らが何を話しているのかさっぱりでございますが、神子様は理解されておられるのですか?」
「流石に専門的な事は分かるがの、判断するに足る話は分かるのじゃ」
「では、いま彼らはどんな話をされているのでしょうか」
「ふむ? まだマナの濃い空間を作る話をしておるのぉ」
複数の装置を使ってなるべく濃度を安定させ、呼吸を楽にさせたり日光浴かのように少しだけマナが濃い空間を一時的に利用する施設をという方針で今は考えているようだ。
「しかし、魔石の供給を考えるとなると、相当な費用が必要になるが」
「どうせこんなモノを使うのは、金持ちどもだから問題ないだろう」
「ゴーレム研究の一環でとでも言えば、ゴーレム研究にも気前よく金を出してくれだろう」
「あぁ、昔にゴーレムの応用で健康器具を作った時には結構入れてくれたなぁ」
健康に関する事は、やはりどこの金持ちも財布のひもが緩むのだろう。
そしてそういった金持ちが関心のある事柄にかこつけて、ゴーレム研究に予算を出させようとしている辺り、あの若い技術者以外も意外とそういった方面に頭が回るではないか。
「妃殿下は、こういった健康に関する機器にご興味は?」
「無いのぉ」
「健康にご興味がないのですか?」
「ワシが体調を崩すということは有り得ぬからの。寿命に関してもワシの心配をするよりも、おぬしらが先に墓に入る方が早いじゃろうて」
そもそも何かよく分からない健康に関するモノよりも、ワシが傍に居た方が長生きできるのだから、そういった胡散臭い物に興味はないと、存外パトロンにを作るために節操のない技術者たちを軽くあしらうのだった……




