3239手間
自分たちが知らず知らずの内に払わされている代償とは一体何なのか、存在の格などと言われてもよく分からないと、しかし聞くのは怖いとばかりに悩んでいる壮年の者たちを尻目に、比較的若い者たちは恐れよりも好奇心が勝ったか、ワシに払わされた代償とは何なのかと聞いてくる。
「昔の人のやらかしのせいで、一体何を自分たちは支払わされているというのですか」
「まぁ正確には失ったモノと言った方が正しいがの。厳密に言えば違うのじゃが、おぬしらにも分かりやすく言えば寿命や体の丈夫さ、法術や魔法への適正じゃな」
「昔の人は長生きだったと?」
「別に昔の人ではないがのぉ、世界樹の傍で暮らして居る者と比べると、おぬしらの寿命は半分以下じゃからの」
「つまり世界樹の傍で暮らせば寿命が延びると」
「代を重ねればそうなるじゃろうな。ま、今すぐどうこうできる話ではないのであきらめることじゃのぉ」
マナの濃い場所に行ったからといってすぐに寿命が延びる訳もなし、むしろ寿命が延びるほどマナが濃い場所に行けば、彼らはまず間違いなく逆に寿命が縮むだろう。
「なぜ、早死にすると、昔の人が神の機嫌を損ねたからと、まるで呪いではありませんか」
「別に呪いではないぞ、単純にマナ中毒でじゃ、それも含めて代を重ねねば寿命は延びぬという訳じゃな。あと別に女神さまの機嫌は損ねてはおらんぞ。多分ちょっと懲らしめたとか、叱った程度ではないかのぉ」
「懲らしめた程度で人が滅び、生き延びた者の末裔も寿命が短くなるのですか」
「滅びたのはまぁそうじゃが、寿命が短くなったのは人が世界樹を切り倒した愚行のせいじゃからの?」
確かにお仕置き感覚で滅びるのは、それだけ聞くと何とも厳しく感じるが、神が世界に干渉してきたのだ、そう思えばその程度で済んで御の字と言った所だろう。
そして寿命が短くなって体が弱くなって法術などへの適性が下がったのは、世界樹を切り倒した末の因果応報であるので女神さまとは無関係だ。
「つまりどうしようもないと」
「そうじゃな。新しく世界樹が生えるのを待つことじゃ」
「え? 世界樹って新しく生えてくるモノなんですか?」
「んむ。神国に世界樹の若木といえるものがあるからの、それが成長すれば、帝国当たりの者も寿命は延びるんじゃないかのぉ」
「それは素晴らしいですな。とはいえ若木というなら、すぐにその栄誉に浴することは出来なさそうですが」
「そうじゃの。数千巡りくらいはのんびりと待つかのぉ。んむ、これも先の楽しみというものじゃ」
普通の木々と同じようなモノとでも思っていたのか、ワシの言葉を聞いて技術者たちはその動きをピタリと止める。
天を突くほどの巨大な樹木が数十巡り程度で出来る訳がなく、数千巡りというのも最低限の機能を果たし始めるにはなので、ちゃんと育ち切るまでは何万巡りも掛かるだろうと言えば、技術者たちは何で昔の人たちは切り倒してしまったんだと地団駄を踏むのだった……




