3235手間
ワシの脅しが発端だというのに随分と技術者たちはのんきなモノで、壮年の技術者の話に生唾を飲み込んでいるが、まぁワシも興味がないわけでもない。
とはいえここまで馬鹿正直に立っているのも阿保らしいので、ワシは椅子とテーブルを新たに創り出して、近侍の子らを手振りで呼んで給仕を任せる。
そんな中、全員の興味深そうな顔を見て満足したのか、壮年の技術者は溜めに溜めた言葉をついに放つ。
「その円の中心というのは、今の帝都。そう、あの遺跡が中心なのだよ」
「なっ! 帝都はそんな危険な場所にあるのですか」
「安心したまえ、当時の人々が滅びた理由が何であれ、災害ならば当時の城壁や遺跡がほぼ完全に残っているので大丈夫であるし、疫病の類でもそれが蔓延したのはもう何千巡り以上も前の話だ」
「正確には万は離れておるがの、あとおぬしの話を聞いて、どうやってかは知らぬが、何故なのかは見当がついておる」
「そ、それは何故!」
ワシが思わず口を挟めば、壮年の技術者は思った以上の勢いで食いつき、ワシは思わず仰け反りそうになるところを何とか押し留まる。
「なぜ万の巡りほども離れていると、いえ、誰も正確にあの遺跡が建設された時期を導き出せませんでした、技術書に記載されていた日付も現代と似通っては居ますが、そもそも帝国で使われている暦と違うので推察することも」
「百や二百程度は違うやもしれんがの、その当時の生きておった者に直接聞いたのじゃよ」
「はい?」
「ま、交流があったわけではないようじゃからの、あぁ、あいつら滅んだんだと気付いた時から数えてじゃ」
「いえ、そうではなく、遺跡が建築された、万の巡りも離れている時代に生きていた人、ですと?」
「んむ。おぬしらは知らぬじゃろうが、ハイエルフはそのぐらい生きるのじゃ。とはいえそのくらい長く生きておる者じゃと、殆ど植物と同じような状態じゃからの、アレを人として生きておるかと言えば、ワシは否と言うであろうがの」
「エルフなんてモノはおとぎ話か与太話かと思っていましたが、ぜひ私も会って話してみたいですね」
「無理じゃな。次起きるのは何百か何千巡りか後じゃろうし、何よりおぬしはその場所に行けぬ」
「遠いのですか?」
「遠いのもそうじゃが、その場所は大地が空に浮かぶほどのすさまじいマナの奔流が渦巻いておる場所じゃ、近づくことも出来ずに死ぬじゃろうよ」
「そんな危険地帯でエルフは何を」
「おぬしらにとっては危険地帯じゃが、ハイエルフにとってはそういった場所でしか生きれぬのであるから致し方あるまい」
そんな場所だからこそ、ハイエルフたちは何千巡りも寝て過ごせるのだろう、何せすさまじいマナのおかげで食べる必要も外敵も寄り付かないのだから。
ワシがそうハイエルフを説明していると、若い技術者が横からじゃあ滅んだ原因は何かと口を挟んできて、壮年の技術者に子供を叱るように頭を押さえつけられるのだった……




