3233手間
技術者なんてモノは、大体が自分が知りたい分野以外のことについては無知なものだ。
しかし、この壮年の技術者は広範な知識を持っているらしく、ワシの言葉に何やら心当たりがあるようだ。
「ゴーレムなどの有用な発掘品は出てこずとも、帝国の広範な地域で同様の様式の遺跡が幾つも発見されている」
「それは流石に知ってるが、それが今の話と何の関係があるんだ?」
「まぁまて、同じ様式でない遺構なんかも見つかってるんだが、それらは皆バラバラな時代のモノであると分かっている」
「それが普通だろう?」
「あぁ、だが先に言った広範な地域で見つかる同様の様式の遺跡は、殆ど同じ時期のモノなんだ」
「同じ時期に滅んだか放棄されたってことだろう? 別にそれもおかしい事ではないだろう」
「狭い地域であればそれもあり得る。だが広範な地域と言ったろう? それが殆ど同じ時期に滅ぶ、あるいは放棄されるなんてありえない」
飢饉や疫病、大嵐などの災害でその地域がダメになったとしても、帝国ほど広い範囲で同時期に滅びるのは有り得ない。
そう壮年の技術者は熱弁するが、若い技術者はいまいちピンと来ていないようで首を傾げている。
「例えばシウダーが災害なんかに襲われて、そこに居た人々はどうする?」
「逃げれる者は逃げるだろう」
「あぁ、そうだ。そして災害が収まったらどうする?」
「逃げた先でそのまま住み着くか、戻って復興させる?」
「その通りだ、そのまま完全に放棄されたらそこはいつか廃墟や遺跡になる。だがそこに住んでた人々の痕跡というのは、生き延びた他の地域で残る」
「それは分かるが……」
「だから様式が同じ、つまり同じコミュニティの者たちが殆ど同じ時期に痕跡が途絶えるということは、殆ど同じ時期に同じ理由で滅んでいるということだ」
「でも、歴史で殆ど同じ時期にっていうと、百巡りぐらいの間があるだろ?」
「普通はそうだが、調査した学者たちによれば見つかった遺跡に限った話ではあるが、長くとも数巡り程度の誤差しかないそうだ」
壮年の技術者の話にふむふむと若い技術者やその他の技術者たちが頷く中、ワシはどうやってそんな細かく巡りの時期を調べたのだろうと、一歩引いた時期で内心首を傾げるのだった……




