3230手間
障壁の魔導具周辺には技術者たちだけでなく、ゴーレムの操縦士までもが集まって、お互いが持っていた機器などを見せ合い、顔を青くしながらも喧々諤々といった様子で何やら話し合っている。
「アレをぶっ壊すなら、ゴーレムの装甲なんて紙屑以下だぞ」
「しかし、近づかれなければ大丈夫じゃないか? 向こうとてゴーレムに振り払われれば、ただでは済まないだろう」
「本当にそう思うか? アレを壊す腕力だぞ、逆に受け止められたりしそうな気がするんだが」
「そういえば、退役兵やらがゴーレムを投げ飛ばしたとか、振り下ろした剣を受け止めたとか言っていたが……」
「まさか戯言や相手もゴーレムだと思っていたんだが、本当に?」
「だがあの戦争はもうずっと前の話、そう考えると見た目が」
もっと技術的な話をしているのかとも思ったが、随分と俗っぽいというか、ただの感想を言い合って最終的に当時の話が本当だと悟ってから、そうなるとワシの外見と歳が一致していないと技術者たちは、皆してこちらをちらりと見る。
「獣人は外見があまり変わらないとか?」
「だとしても衰えはするだろう」
「衰えてなおあれなのか」
老いても尚とでも思っているのか、驚愕の表情でこちらを見ているが、流石に衰えてというところは訂正させねばならないだろう。
ワシはティーカップをゆっくりと置くと、縮地で彼らの背後へと一瞬で回り込む。
「衰えてというのは聞き捨てならぬのぉ。もしワシと同じ寿命の者がおれば、ワシなぞまだまだ若輩者であろうて」
「ひえっ!」
ワシが背後から話しかけると、ワシが消えたことすらまだ認識できていなかった彼らは、持っていたものを放り投げそうな勢いで驚き振り返る。
「それとゴーレムがどれほど来ようがワシにとっては赤子が遊ぶ人形とさほど変わらぬ」
「き、聞こえていたんですか?」
「獣人の前で密談は不可能と思っておくがよい」
「そんなつもりはないのですが、この距離ですし、まさか声が届いているとは」
「今後獣人と会う機会があるかは分からぬが、あの距離なら殆ど目の前で話しているのと変わらぬと思っておくのじゃな」
言外の言葉を彼ら技術者が理解したかは分からないが、まぁ変な事は言うことは無くなるだろうと、こくこくと頷く技術者たちを一度見まわしてから再び椅子へと縮地で戻り、何事もなかったかのように再びティーカップを手にするのだった……




